夢小説

□なんだかんだ、かっこいい
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【『なんだかんだ、可愛い』の続きとなっております!】




「…もしもし?」

『よ、奏』

「…何、なんか用?」

『明日暇?』

「え?……あー、まあ」

『じゃあ明日俺ん家遊びに来い』

「は?」

『午前10時な。
 じゃ、要件はそんだけだから。じゃーな』

「はあ!?
 ちょ、待っ……くっそ、清志のヤツ切りやがった」



耳に届くのは、ツー、ツー、という音。


いきなり電話掛けてきてなんなの。

がしがしと頭を掻きながら、私はスマホの画面を睨んだ。



なんだかんだ、かっこいい




「明日家に来いとか……いきなり過ぎじゃね」



リビングのテレビの前で独りごちる。

正午の今現在、無事大学の合格を数日前に手に入れた私はのんびりと過ごしていた。


受かった大学は、アイツと同じとこ。
学部は違うけど。


清志も無事受かった。
無事っていうか余裕な感じが少しあったか……頭いいしな。

数学が苦手な私に勉強を教えてくれた事は本当に感謝してる。
こんなのも出来ねぇのかとか殴るぞとか轢くぞとか言いながら、
その教え方は本当に丁寧で分かりやすかった。

教えてと言ったら、必ず返してくれて。
難問が解けたときは小さく笑って
くしゃくしゃと頭を撫でてくれたり。

素直じゃない私は、まあ素直じゃない反応を毎回のようにするのだけれど、
そんな私の性分を分かってくれてる彼は実は嬉しく思ってる心を見抜いて甘やかすのを続けてくれた。



うん。本当に感謝してる。





「に、してもなんで明日?」


思い当たることがない。

合格祝いでどっか遊びに行くとか?
いや、それだったら計画してから行くだろ。こんないきなりにはならないと思う。
なんだかんだあいつは計画ちゃんと立てるタイプだし。


じゃあなんだろ。


ふとスマホに目を落とす。
待ち受け画面の日付が目に映った。


〔3月13日〕



「……あ」


分かった。

明日はホワイトデーなんだ。



「すっかり忘れてた……」



バレンタインのあの日は
珍しく凝ったお菓子を作ったなぁなんて思い出す。

色んな種類を作り、チョコペンでチームのロゴや背番号、ちょっと照れくさい英語を書いて。

カードも書いた……あー駄目だこれは恥ずかしすぎて内容思い出したくねーわ。



「お返し貰えんのかなー…」


何貰えるんだろ。
去年はクオリティ高いクッキーたちだった。

売ってるやつみたいに一つ一つがシャレてて、女子かって突っ込んだ思い出がある。


今年はなんだろう。




はた、と頬が緩んでるのに気づく。

辺りを見回して、キッチンに立つお母さんに背を向けるように座り直した。

いまさらニヤけを引っ込めるつもりは無いけど
せめて人に見られないように。

ソファの上に体育座りをして膝に顎をのせた。
ふへ、と笑う。


こんな表情してるなんて私も結局女だ。

それも清志絡みのこと限定だなんて。
気持ち悪いくらい乙女じゃん。

こんな側面、私を深く知らない人に見せたら驚かれるに違いない。
私は男らしい女で通っているし。
ってか実際そうなんだけど。

乙女の側面は特別な一面なんだ。
きっとこんな好きな人が出来なければこの側面は無かったと思う。




「ふふ、明日楽しみ」


独りでに笑う。

そして机にあるお菓子をひとつ摘んで口に含み、
私はテレビに視線を戻した。




*
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