夢小説

□発情期ネコに、ご注意を!
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そんなこんなで奏が俺の部屋で過ごすようになってから約3日が経った。

俺の部屋で過ごしているということはつまり、
まだ猫化したまんまだということを指す。


幸い、耳と尻尾が生えているあの状態からさらに猫化が進むということはなく
今日も朝見たときはその二点を除けば今までと変わらない人としての見た目のまま。

食べ物の好き嫌いはいつもと変わらず、なんでも基本よく食べるのも相変わらず。


ただ少し変わったのは、スキンシップが多くなったのと
少しだけ甘えたがりになったことぐらい。


そして1番心配なのは
体調が優れないことである。


本人曰く、体がだるく少し苦しくなる事があるのだそう。

現に少し呼吸が苦しそうな時があって、そろそろマジで病院に連れてくべきなのではと思い始めた。

けど、それを本人に伝えると
頑として「病院なんて行かなくても平気、たいした体調不良じゃない」と言い張るので
結局行かずじまい。

ぶっちゃけ、体にこんなカオスな変化が起きてる時点で
結構な体調不良だと思うのだけど。




「……もう6時か」


スーパーから買い物袋を片手に出てきた俺は、腕時計を見ながら呟く。


大学の休みをとった2日間は家でゆっくりと過ごしたので
今日は奏を家に留守番させ大学へ行った。

本当は夜遅くまで研究室でやりたい実験があったのだけど、家に一人で長時間置いとくのはさすがに可哀想だし何よりも心配で。
続きは明日やることにして大学を出て、買い物を済ませた。


そういや、今日も夕飯作っといてくれるって言ってたな。


泊めてもらうからせめて家事はやる!と休みの間も色々と主婦っぷりを発揮してくれていた奏。
料理の腕はよくて、昨日食べた食事もかなり美味しかった。

具合悪いんだから休んどけと言ってもいう事を聞かず、
結局料理は任せてしまっている。


無理してなきゃいいけど。

そう思いながら帰路につく。
見上げた空は薄暗い。
冬より日が長くなったとはいえ、6時過ぎにもなると視界は悪くなる。

自然と速まる歩調をそのままに
俺は家へ急いだ。





「ただいまー」


ドアノブを引きながら声を中に放る。
ワンテンポ遅れて鼻腔に届くのは、部屋の落ち着く匂い。

上下の鍵を慣れた手つきで掛け
無造作に靴を脱ごうとする。



「……?」



そこで、はた、と動きを止めた。


返事が、ない。

いや別に無くてもいいんだけど……毎回元気なおかえりという言葉と共に
玄関にわざわざ出迎えに来てくれていたから
少し違和感を覚えてしまった。


寝てんのかな。
そうだったらいい、体調もまだ優れてないし。



しかしリビングのドアを開けた俺は、すぐにそうではない事を知った。


「……奏!?おい、どうした!」



そこにはカーペットの上で
くの字に体を折り曲げる奏の姿。

苦しそうに息をして、耳はフルフルと小刻みに震えている。
尻尾は力んでぴん、と伸びたり
床や体を叩いたりしていた。

悶えるように体を動かし
たまに床に擦り付けるように寝返って。
肩に触れると弾けるように反応して、小さく声を上げる。

歪められた顔にはうっすらと汗が滲み
俺を見上げる瞳からは涙がぽろぽろと溢れていた。



――これ、やばいんじゃね。



猫化しててこの症状。きっとただごとじゃない。

ちくしょ、こうなるんだったらもっと早く病院に連れてくんだった!



「ちょっと待ってろ、すぐ救急車を――」


しかし携帯を取り出す俺の腕を、必死に震える手で掴まれてしまう。



「いいっ、大丈夫……っ!」

「ああ!?んなわけあるかよ!」

「大丈夫なの!
 じ、自分になにが起きてるか……検討は、ついてるからっ」



だからそれしまって、と懇願する奏。

しばらく顔をしかめて
しぶしぶとそれに従った。



「……で、何なわけ」


正直俺には全く検討がつかない。


こんなに苦しそうに転がって、息は汗をかくほどに上がって。
体に触るだけで身をよじらせ、
目には涙を沢山溜めて熱のある視線を向けてくる症状なんて…………ってちょっと待て。


これってまさか。
いや、ありえねぇだろ。

確かにこいつは女だけど、本物の猫ではないわけで。



でも過去に見た「その時期の」メスの野良猫は
確かにこんな風に悶え苦しんでいたような。



「……まさかお前……。
 ……発情期?」

「……」



無言のまま、しら〜っと視線をそらす相手。
上気して赤い頬が、さらに耳まで色づいた。


それはつまり、そういうことなんだろう。



「……はー……驚かせんなよ、まったく……」



大事じゃなくてよかった。
もしかしたら死んじゃうかも、とか思っちまったし。


……いや、これも十分大事だけど。






「だ、だめ、離れて。こっちこないで」

「は?なんで」


もだもだと苦しむ奏に手を伸ばすと、拒絶の反応を示された。


つらいなら、やることは1つだろ。


発情期のメス猫は本当に苦しいのだと聞いたことがある。
膣がたまらなくむず痒かったり痛かったりするとか。

でも1番痛いのはオス猫の性器をメス猫の膣から引き抜く時らしい。
オス猫の性器には100本以上の刺があって、抜くときに刺さって劇痛が走るのだそうだ。

……俺まで猫化しなくて本当によかった。
まあしたところで性器まで猫化するかは分かんないけど。



「ちょっ、だからこっち来んな、……っ!」


トン、と後ずさりする奏の背中に壁が当たる。

部屋の隅に追い詰めた俺は
そっと頭を優しく撫でた。



「……っ、」

「苦しいんだろ?」



頭を撫でていた片手で、今度は髪の間から覗く三角の耳を刺激する。

すると気持ちいいのか
小さな嬌声のようなものを漏らした。

震える手で俺の手を払おうとするけれど、力が上手く入らないらしいその手は
やがて観念したかのように床の上に置かれる。



どうして嫌なのかと聞けば、
私が私でなくなりそうだから、と返事。


発情期ってそんなもんだろ。
理性が欠ける、もしくは無くなる。きっとそんなの。


発情期なら発情期らしくしてればいい。


「私のこと、嫌いにならない?」なんて聞いてくる、不安げな顔の額をぺちんと軽く叩いた。


馬鹿かお前。
なるわけあるか。





「……どうしてほしい?」



耳元で囁く。

体がビクン、と跳ねたのがこっちまで伝わった。

やや時間を置いてから
首に回される、両腕。


熱い吐息が、耳にかかる。




「……清志」

「ん?」

「凄く、苦しい」

「うん」

「だから……助けて」



首に埋めていたその顔がそこから離されて、至近距離から俺を見つめた。



その瞳は、

欲情の涙に濡れて
婬情の色を映して
愛欲の微光が灯っていた。




「キモチヨク、して」


「了解。……覚悟しろ」




溶けるぐらい気持ち良くしてやるよ。

吐息と共に囁いた。


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