メイン♪(短)

□君の存在
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暖かい昼下がり。


今日は依頼もないので読みかけの本を読みきってしまおうと思い、ソファに腰掛けた。



と、そのとき。



「せんせー!」

玄関から元気な声が飛んできた。

この声は亜里沙か。

おおかた、またいつものように遊びに来たのだろう。

(今日は本を読破するのは無理そうだな…)

そんな気持ちとは裏腹にいつのまにか無意識に綻んでしまっていた自分の口元は
彼女が来てくれたことが嬉しいと言っているようなものだった。


「お前さんは、いつも突拍子もなく来るな…」
無意識の笑みをうかべながら玄関に行くと、明るい笑顔の彼女がいた。


が、




「先生!ハロー!ヒマだから遊びに来ちゃっt「お前さんどうしたんだ!!!その腕は!!!!」




たしかに、玄関には明るい笑顔の彼女がいた。
赤い血で腕を染めた彼女が。


「何をどうしてこんなことになったんだ?!」

「え?あ〜聞いてよさっきバイクと事故ってさ〜」

「事故っただと?!」

「うん、でもまぁあれは一方的にあっちが悪いんじゃないかな〜・・・」


とりあえず包帯ちょーだい?

なんて呑気に小首を傾げるもんだから、詳しい話も知りたかったがとりあえず家の中に入れとしか言えなかった。


「はー…、まったくこういうことがあったら電話で呼びなさい。そうすれば車で迎えにいってやったのに…。」

家にいれ、ソファに座らした亜里沙の細い腕に包帯を巻きつけながら呆れ顔で言うと

「アハハ、だって悪いじゃん。そんなの」

と、ヘラヘラと笑った。

ハハハと笑っている亜里沙は分かっていないのだろうか。

こんな風にいきなりボロボロの彼女を目の当たりにするほうがよっぽど私の心臓に負担をかけているということが。


いや、分かっていないんだろうな…。


「…で?どういう事故だったんだ?」

「あー、それがさぁ引ったくり?みたいな感じで、バイクに乗ってたヤツがいきなりあたしの鞄つかんでもってこうとするから
いきなりすぎて驚いてさぁ
そのまま勢いで車道にでちゃって軽く引きずられたみたいな?
まぁあたしが大声だしたからたまたまパトロール中のお巡りさんがきてくれて一件落着☆
みたいな…ってアレ?先生どうしたの」

話を聞いていくうちに私はいつのまにか唖然とした顔をしていたらしい
(そりゃ、したくもなるさ)

彼女はキョトンとして
「…大丈夫?」
なんて聞いてきた。


引ったくりだと?
そいつは事故じゃなくて事件だろう。

しかも車道にでただと?へたすりゃ車に轢かれるぞ…。

「…お前さん、そういう大事なことはもっと早く言ってくれ…」


「ん?まぁ結局たいしたことはなかったんだし?神崎亜里沙無事生還いたしました!ってな感じだしwww?」


「そんな呑気なことを言っているんじゃない!!何かあったらどうするつもりなんだ?!」

おどけて敬礼までする彼女におもわず大きな声で言葉を放ってしまった。

すると、

「そんときは先生治してくれるでしょう?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて亜里沙は言った。



「それに、」

「?」


「先生を残してあたしが死ねるわけないじゃん?」


「…」

びっくりして言葉がでない私に更に彼女は綺麗な笑顔を浮かべて言った。


「大丈夫。だからそんな心配そうな顔しないで?ね?」


怒っていたはずの私はいつのまにか心配そうな顔をしていたらしい。


結局のところ、ふざけてヘラヘラしていたのも私に心配かけないためにやっていたのか…。

なんともいえなくなっていると、


「たらいま〜」

玄関でピノコの声がした。

「あ!ピノちゃんだ。お〜いピノちゃ〜ん」
亜里沙はソファからぴょんと降りて玄関走って行った。


「なんなのよさ!玄関にちがおちてゆのよさ
あ、亜里沙きてたんら!」

「えへへ〜ピノちゃんの好きなクッキー買ってきたよ〜ちょっと訳ありでわれちゃってるのもあるけど」

「わ〜い、やったよのさ!ちぇんちぇ〜クッキーらよ〜」


クッキーに喜ぶピノコと一緒に笑っている亜里沙の笑い声を聞いていると、とりあえずこの話は終わったみたいなので


「分かった、分かった。じゃぁお茶を入れてみんなで食べよう」

と言いながら救急箱を片付けることにした。



(『そんときは先生治してくれるでしょう?』)


(治すよ。何があっても私がね。)

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