メイン♪(短)

□薄っぺらい足跡
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「私、帰らなくちゃ」



気だるそうに亜里沙がそうつぶやいたのは


二人が何かに急かされるようにこのホテルで
体を重ねてから約一時間後の



午前一時半のことだった





「・・・・そうか」




なんと返せばいいかわからないので
とりあえずそう返事してみると




亜里沙はクスリ、と笑った





「黒男は、いつでもそう言うね」






・・・・ほかになんと言えばいいのだろう


こういう時、普通の恋人ならなんというのが正しいんだ?





そう考えて自嘲気味に笑った






普通の恋人か・・・


知らず知らずのうちに、自分と彼女の関係は
普通ではないと認識している自分に対する皮肉の笑み






そうは言ってもなんてことはない、




不倫だ








今、ベットから降りて服を着始めている亜里沙の薬指には綺麗なリングがある





私以外の男からもらった、


私以外の男との愛を誓ったもの。








行為が終われば何事もなかったかのように彼女はそれを指に戻す








いつからだったか・・・



その指輪を奪い取って消し去ってしまいたいなんて
そんな強い強い想いが
虚しさに消されてしまったのは






初めて彼女をこの手の中に閉じ込め
彼女と一つになったときに感じた


あのどうしようもない切ない想い





今この手の中にいる彼女は
ここではない帰る場所に帰ってしまうということに感じた悲しさ





 
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