あのね、もう一度逢いたいの


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・・・・あの温もりを、今でも忘れることはない

あの瞬間確かに二人の温もりはホンモノで真実で。
見えない未来にさえ不安を抱くことなどなかった。





『先生!』


亜里沙が振り向いて笑う


その笑顔があまりに綺麗でつられて私も笑った











・・・・そんな、少し前の幸せは
今、夢となって私を蝕む





「・・・・・またか、」

夜中、そんな懐かしい夢をみて
目が覚めて自分のいる暗い部屋のベットでため息をつく。



(・・・・・これで何度目だ・・・)


窓から薄ぼんやりと見える朧月に目をやりながらそんなことを考える。



(亜里沙…)

・・・・夢で見る亜里沙はいつも笑っている

時に明るく、時に恥ずかしげに、時に嬉しそうに。

何度も何度も間近で見てきたその笑顔は今も色あせることなく私の夢すら支配する





重い、重いためいきをもう一つついて
寝直そうと思っても目は既に冴えてしまっている


亜里沙の夢から目覚めたときはいつだってこうだ。




















・・・・・あの日、亜里沙がいった言葉がふいに思い起こされる




『先生・・・ゴメンね?』


泣き笑い、の手本のような顔をして
あふれ出す涙をしきりにぬぐいながら亜里沙は言った




その笑顔が、皮肉なことに
今まで見たどの笑顔をよりも抱きしめたいという衝動に駆られるものだった




でも、その体を抱き寄せる資格も腕の中に小さな愛しい人を閉じ込める資格ももう自分にはなくて・・・・




ただ、ひどく無機質な声で『あぁ・・・』とだけ呟いた、自分。









そして・・・・まるで消えるようにここから去った亜里沙。

[立つ鳥跡を濁さず]とでもいうように何一つ残さずここから、私から消えていった亜里沙・・・・。







あとに残された自分は[思い出]と言う名の鳥かごだけを手にして・・・・・今に至る。





ただそれだけ。

それ以外は今も前もほとんど何も変わらない。

ただ、亜里沙に出会い、亜里沙と分かれた。
それだけのこと。






それでも、そのわずかな幸せを今でも自分は忘れることができない。






そうして進んでいく時間に置いてきぼりにされた。










鈍い眠気がふいにあらわれて、流されるように目を閉じる



あぁ、きっとまた亜里沙の夢をみるのだろうと心の中で思った。











この厄介な感情を持て余しながら私はこれからも生きていくのだろうか・・・






(何かを悔やんだりすることは嫌いだが・・・、)









あのまま手を繋ぎ続けていたらと今でも思うんだ


《そうしたらこの、体温のないベットにも
まだ彼女の温もりがあったかもしれない。》


















・・・・・眠りに落ちるその瞬間、確かに私には胸の奥で亜里沙の笑う声が、聞こえた
 

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