メイン♪(長編)【その包帯を風に乗せ】

□命というもの。
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突然のことで俺もユリも驚いて亜里沙を見た。

亜里沙はなんとも言えない顔をしていた。

真剣で、だが少しこわばった顔で。
俺をまっすぐに見ていた。

恐らくなんの仕事かユリから聞いたのだろう。
しかしそれならなぜ、ついてくる?

「・・・どうしてだ?」
「分からない」
即答された。

「・・・ダメか?」

「お前がいいなら好きにしな。俺は何とも言えん」

ユリが戸惑いながら俺と亜里沙を交互に見ている。

俺はそんなユリと亜里沙を静かに交互に見る。

でも、亜里沙は俺をただまっすぐに見ている。

そして、
「じゃぁ…ついていく」

と言い、困っているユリの方を向き

「そんな顔しないでくださいよ」
と苦笑した。

「え、ええ…」


「行くぞ」
無機質にいうと
「はい」
と言いついてきた。


ユリのほうをあえて見ずに俺は部屋をでた。


人一人の命を奪うには軽すぎる安楽死装置は、いつものように冷たく
俺の手にしっくりと収まる。

この瞬間、俺は死神になるのだろう。



車に乗った俺に続いて亜里沙も後ろに乗った。


そのまま無言で車を走らせた。










大きい病院についた。
院内に入ると若い男性が俺に気づき近寄ってきた。
「・・・ドクターキリコさんですね?」
「ああ」
「父が待っています。来てください」
歩き出した俺の後ろについてくる亜里沙。


静かな廊下に三人分の足音だけが響く。



男はある病室の前で足を止めた。

「ここです」

「…お前は中にはいるのか?亜里沙」

「・・・うん」


いまだ、なぜ亜里沙がついて来たのか俺は知らない。

人が死ぬ姿をみたいのだろうか。

生きることにしがみついて生還したコイツが。

この場に不釣合いな亜里沙の存在に男は戸惑っている様子だが、俺もあえて何も説明せずに病室に入り、その後を亜里沙がついてくるので
男も何も言わずに病室にはいった。
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