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□零れて、落ちる
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*さやかちゃんが重い病気です
苦手な方はbackお願いします



ウソは嫌い
ただただまっすぐ本当の事が知りたいから
だけど、世の中ウソをつかなきゃいけないときだってあるわけで
そんなあたしでも必要ならば嫌いでも一応嘘くらいはつける



「ごめんなさい」



ああ、でも今だけはウソつきたくなかったな
大好きな、日に焼けた顔が歪むのを見てるとこっちが泣きたくなる



「あたしは、日向くんを友達としか思ったことないんだ」



ごめん、日向くん
全部全部ウソなんだ
あたしは多分日向くんが思ってるよりもずっと日向くんのこと好きなんだ
友達だなんてとっくの昔に思えなくなってた
だけどこうするしかないんだ
日向くんにとってもあたしにとってもこれが最善の選択だ



「俺はもう、ずっと好きだったし
多分これからもずっとだ」



胸の奥が熱くて苦しい
なんでそんなこと言うの
今更この状況はどうしようもないのに





『手術が必要ですね』



医者に告げられた言葉が耳から離れない
宣告された病名はお兄ちゃんと同じもので、お兄ちゃんが治った次はあたしなのかと運命を呪いたくなった
絶望の表情を見せる母親の顔を見てられなくてあたしは場の空気を変えようと手術で治るのかと訊ねた



『……正直五分五分です』



あぁ、聞くんじゃなかった
一瞬そう思ったけど、ある意味これでよかったのかもしれない


――これで、迷う必要は無くなった

あたしが感じていたのはただ日向くんを諦める理由ができた喜びだけだった





放課後の教室は先ほどまで入っていた暖房のお陰で暖かい
さっきまで日向くんがそこにいたことすら信じられないくらい静かな空間



「こうするしかないんだよ」



誰に言うでもなくあたし自身にそう言い聞かせた
あたしの決意自体は揺るがないけど、日向くんの存在自体があたしの心を揺るがせる最大にして唯一のものだから
だからこそあたしがその決断を下すことが出来たのかもしれないけど



いつまでも日向くんについていくつもりでいたこの身体は
ついていくどころか同じステージにいることすら赦してくれない
あたしたちの間からスポーツをとったら後にいったい何が残るというのだろう


日向くんの気持ちは知らなかったけど、それはあたしたちにとっての共通項であるスポーツを通じて得たものなのはおそらく間違いない
それ自体すごく嬉しいことだけど、果たしてあたしが二度と動けない体になったとして
その時日向くんの気持ちは変わらないのだろうか


そうか、あたしはそれが怖いんだな
それなら色々と納得行く気がする
嫌いなウソを付いてさえあたしは日向くんに好かれたかったのか



「……バカだな、あたし」



いつもみたいに笑い飛ばすことも出来ずにひたすら机の木目を見つめる
ホント、あたし何やってるんだろ
好かれたい嫌われたくないと思いながらも拒絶するなんて
でもこうするしかないんだ
万が一の事があったときにあたしは日向くんの枷になりたくない
いつの間にか視界がぼやけてきて、不意に糸が切れたように熱いものが頬を伝い始めた



「なんで、何で今なんだよ」



やっと手に入れることが出来そうなのに
ずっと待ち望んでいたものがすぐそこに見えているのに



あたしは手の中にある幸せを投げ捨てることしか出来ない




幸せがポロポロとこぼれていく

(あたしはただ黙って眺めるだけ)




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