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□ホントに誰得!?
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放課後、俺は普段は入らない六年生の棟の教室の扉を開いた
ガラガラという音に反応して銀先輩がこちらの方を向き話しかけてくる



「速水!黒鳥さんどうだったっ?」



「ダメです銀先輩
相手にもされてないみたいです」



中にいるのは将棋クラブもとい、オカルトクラブの面々だ
今は銀金太先輩をはじめとする六年生に卒業が迫り、あわててクラブ存続のための人員を集めている最中で
目下のところのターゲットは幸か不幸か黒鳥だったりする



「速水もうちょっと粘れよー」



「そう言われましても、
話しかけただけで麻倉に睨まれるわ、東海寺には呪われそうになるわで大変なんです」



本当は大形からも鋭い視線を感じる様な気がするんだけど、
それは俺自身できれば気のせいであってほしいから敢えては言わない
それにしてもアイツ競争率高すぎるだろと心の中で呟いた



「なんだ、その東海寺ってやつは呪いができるのか!?」



キラキラした目で詰め寄ってくる銀先輩の目的は、実はオカルト仲間を発掘したいだけではないかと最近俺は疑っている
別にそれ自体悪くはないけど、人付き合いが嫌いな俺とは本質的に相容れない精神だ

それにしてもあの東海寺にまで食いつくとは余程切羽詰まっているのか、単に仲間を増やしたいのか一体どっちなんだろう



「今まで使ったことはないと思います」



手品なら何度か見せられたけどなと東海寺が起こした数々の超常現象を思いおこす

バレなければ“霊能力”が本当にあるのかと、あの一路たちに思わせる程にはアイツの手品は完成度が高い
いっそ東海寺を復興するより手品で生計立てればいいだろと本気で思う


「なんだよ、面白くないなー
もっとインパクトあるやついないのか」



インパクトで銀先輩の顔に勝るものはそうそうないから無理だと危うく言いかけて、すんでの所で失礼だと思い直し俺は言葉を飲み込んだ
俺にだって常識はあるんだ



「それより、先輩こそどうなんですか」



「それがな、ことごとく藤原に邪魔されるんだ
“黒鳥さんは次期図書委員長なんだから余計なことに巻き込まないでくださる?”だってよ」


――似てない、全くもって似てない


高い声を上げて体をクネクネさせながらそう言う銀先輩を前にして流石に声に出してそう言うことはできなかった
本人が似せにいったことで余計に救いようがなくなっている



それにしてもあの藤原先輩の物まねを本人不在とはいえよくやろうと思ったよな


実際には一度だけしか藤原先輩を見たことは無いけれど、それでも分かる
あれは明らかに俺の苦手なタイプだ
まあ俺自身大概のタイプは苦手だけど、ああいうタイプが一番駄目なんだよな



「ったくよー
アイツには可愛げってもんがないのか」



「……先輩、それは無理な相談では?」



「にしても限度ってもんがあるだろうよ」



限度と言われても俺は藤原先輩のことあんまり知らないんだ
あの一路が怖がるくらいだから“しっかりしている”人なんだろうとあたりをつけてるけど
基本的に黒鳥以外どうだっていいから回避すべき人だって以外はなにも知らない



「もっと可愛いかんじだったらモテるんだけど、
なんであんな頑ななのかね」



その話をする銀先輩の顔は何だか楽しげで、それはよく東海寺や麻倉が黒鳥に向ける笑顔に似ていたから
まさか、と思い俺は先輩に聞いてみることにした



「好きなんですか、」



瞬間真っ赤に染まる先輩の顔をみて一つため息をつく
確かに聞いたのは俺だけど、ここまであからさまな反応されると逆に面白くないよな
いや、将棋のコマが真っ赤になるっていう画はなかなか面白いかもしれないけどさ



「い、言うんじゃないぞ!」



「言いませんよ」



だって誰にも得にならないし
そもそも俺に言う相手がいると思ってるのかこの人は
卒業間近の六年生の恋模様、しかも見た目は将棋のこまな銀先輩の恋だなんて桜都でも食いつかないこと請け合いだ

あ、でもこれで黒鳥との共通の話題が見つかったかもしれない



「速水、絶対言いふらすだろ」



「相手いないんで大丈夫です」



正確に言えば黒鳥以外は、だけどな
さて明日どうやって伝えてみようか?




話題が一つ増えました

「速水くんはそれをあたしに言ってどうしろと?」


(やっぱりダメか……)






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