short3

□あなたには一生適わない
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強くなりたい
そう思ったのはいつのことだろう


僕の大切な大切な姉は、昔から強かったけどその強さは僕からみても危うかった
自分を貫いて生きるのはツラいと小学生ながら悟っていた僕はずっと姉に憧れてそばについて回っていたものだった
姉は強かったけど僕はそれでも姉が壊れてしまうんじゃないかと心のどこかで恐れていた
だからシスコンだと陰口を叩かれようが姉を常に褒め称えた
大好きな姉が押しつぶされないように、僕が守ると心に決めていたんだ




「重、明日は早い」



「……うん、そうだね」



姉ちゃんと昔のようには言えないほどには成長したけど
“薫”と名前を呼び捨てるには抵抗がある
多分姉はなんと呼ばれようが気にしないだろうけど僕が気にするんだ



「明日、何時だっけ」



「8時半だ」



多分この日が来るまで何度も同じ事を聞いたけれどそれをとやかく言わずに答えてくれる姉は、相変わらずと言えば相変わらずだ
だけどそんな日常ももう終わり
姉は明日、この部屋この家から出て行く



昔から記憶力がよかった姉はその特技を生かし見事大学に合格して晴れて一人暮らしをすることになった
いつも一緒にいた僕たちが離れるときがとうとうやって来ただけのこと
その時はいつか来ると分かっていたのに、僕の心は驚くほど準備不足で



――だけど寂しいだなんて言えない
僕は強くなりたいんだ
強い男が姉を困らせるなんて有り得ない
だから明日姉が乗った車が僕の視界から消えるその瞬間まで僕は姉を祝福し続けなければならないんだ



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