short3

□あなたには一生適わない
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「この部屋こんなに広かったんだな」



「百科事典がなくなったからじゃない?」



「重のメモ帳も大概かさばってた」



「そうかもね」



二段ベッドの下の段、僕の布団の上に腰掛けて僕たちは共に過ごした部屋を眺めていた
中学に入って、周りがどんどん兄弟別室を手に入れていく中僕らは同室を貫き通した
別室にすることもできたし母さんはむしろそうしたかったみたいだけど、珍しく姉が断固拒否したんだっけ
姉も僕と離れるのは何だかんだイヤなんだと知れて嬉しかったのも覚えている



「……寝ないの?早いんでしょ」



「そうなんだが、眠れないんだ」



「……もう少し起きてる?」



寂しいのとは聞けなかった
そんなこと言ったら僕が寂しいと思ってるのが姉にバレてしまう
それに姉は強いから
危なっかしく思えるときもあったけどそれでも姉は強かったから
きっとそんなこと、姉は言わないだろう



「重、」



「なあに?」



「今日は一緒に寝てもいいか」



「……狭いんじゃない?」



「大丈夫だ」



「もうちっちゃくないから、多分無理だよ」



「知ってる
重は強くなったよ」



布団に潜り込んでくる姉の決意は堅いようで
僕は諦めて部屋の電気を消した



こうやって二人並んで寝るのはいつぶりだろう
姉の暖かさがすごく近くて僕は何だか泣きたくなってきた
この暖かさは明日にはもうなくなってしまうんだ



「重、いつでも会えるよ」



不意に姉が呟いた
てっきりもう寝てしまっていると思っていたから余計に驚いてしまう



「私たちはたった二人の姉弟だろう」



「……うん、」



「寂しくなったら来ればいい」



―――何だかんだ、姉は気付いてたみたいだ
僕が強くなりたいと思っていることも、本当は寂しいと感じていることも
姉にはやっぱり適わない



「一つ聞いていい?」



「勿論」



「姉ちゃんも、寂しいの?」



「寂しくないわけないだろう」



「……そっか、」



久々に“姉ちゃん”と呼んで、姉も寂しいと思ってくれていることを知って
それでも僕に気付かせなかった姉は昔と変わらない
心からそう思って昔の口癖を口に出す



「姉ちゃんスゴいね」



「久々に聞いたな、それ」



「言わなかっただけでずっとそう思ってたんだよ」



「そうか」



暗闇の中で見えなかったけれど姉が微笑んでくれた気がして
僕は幸せを感じながら目を閉じた







姉が家を出て数日後
姉も僕も耐えきれなくなり結局二人で暮らすことになるのだけどそれはまた別の話




適わないけど、守ると誓うよ

(重のスゴい!が聞きたかったから)

(いつだって私は強くなれたんだ)






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