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□ほろ苦さも魅力のひとつ
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………寒い



思わず背をいつも以上に丸め、マフラーに顔を埋める
暑いのも好きじゃないが、寒いのが得意って訳じゃない
冬生まれだから寒さに強いとかよく言われるが
実際そんなことある訳ない
大体記録的寒波到来してるのに寒くないとか化け物かなんかか俺は


だから見慣れた通学路にある自販機のブラックコーヒーのボタンを押したのはある意味自然の摂理かもしれない



公園のベンチに腰掛けてプルタブを開けようと試みていると声をかけられた



「速水くん、何してるの?」



ほかの誰かだったら何も言わずその場を立ち去る所だったが
相手は他でもない黒鳥で



「プルタブ開けたいけど手がかじかんで開かないんだ」



考えようによっては情けなくもみえる自分の状況を
黒鳥相手ならあっさり答えてしまう俺はわりとどうかしてる
でも自分自身そんな俺も悪くない気はする



「開けてあげましょっか?」



見ると彼女の手にはしっかりともこもこした手袋がはめられており
完全防寒している黒鳥の方が開けやすいのは一目瞭然



「頼むよ」



そう言って軽く缶を投げると黒鳥は慌てて、何とかキャッチした
その姿がなんだか可愛く思えた俺も大概なんだけど



「いきなり投げないでくださいよ」



「あれくらいとれるだろ」



「あたしの運動音痴っぷりをバカにしないでください」



そんなこと言われても、俺あんまり体育参加してないから知らないんだけど
とは言わずに黙って黒鳥に差し出されたコーヒーを口にした
途端に口の中に広がる苦味
甘ったるいものが好きではない俺にはちょうどいい


ふと、黒鳥がこっちをじっと見てることに気付く
視線はどうやら俺の手元のコーヒーに向けられていて



「速水くんブラックコーヒー飲めるんだ……」



「飲んだことあるのか?」



「こ、コーヒー牛乳なら……」



それはもはやコーヒーとは言えない飲み物だろと思いつつ軽い気持ちで黒鳥に言葉を投げかける



「飲んでみるか?」



「……………いいんですか?」



いやいいですと返ってくると思っていた俺はまさかの積極的な答えに少し、いや大分戸惑う
黒鳥は気付いてるのか?
このままいくと所謂間接キスになるんだけど



「いいよ」



どうやらそこまで気が回ってないらしい黒鳥のことを深く考えるのは一旦やめて
黒鳥に缶を差し出した


本当に恐る恐るって感じで缶に口をつけた黒鳥は
一口口に含んで思いっきり顔をしかめた



「速水くん、よくこんな苦いもの飲めるね」



「そうか?」



「あたしにはちょっと早すぎました」



早すぎるもなにも、こういうのってダメなら一生ダメだと思うんだけど
でも黒鳥ならコーヒー飲めなくてもいいだろ
むしろそのくらいが可愛いとおもうんだけどな


尚も苦しんでいる黒鳥が思い出したようにこちらを向いた



「速水くん、」



いつもと違う甘さの籠もった声に思わずそちらを向くと同時に
唇に何かがふれる感触がして
その温かくて柔らかいものが黒鳥の唇だと気付いて急に体温が上がる



「……口直しです」



そう言った黒鳥だって真っ赤なんだけど
多分柄にもなく赤くなってる俺がいえた義理ではないから



「………足りない」



今度はこちらからもう一度そっと彼女に口付けた




あなたがいれば平気な気がする


(もう一口飲んでいい?)

(……口直し付きか?)






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