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□瞳にうつる愛
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今日はバレンタインデー
女の子にとっては大切な日
そんなことをこのあたしが思うようになるなんて
小学生の頃は考えてもみなかった
それもこれも、良くも悪くも理由はたった一つだけ





周りも浮かれてそわそわしている中、あたしも例に漏れずいつもより落ち着かない
原因は至って単純



「……作っちゃったよ」



今までの人生の中でも
ほとんど料理をしてこなかったあたしだけど
今年はちょっと頑張ってみたんだ

慣れない料理、それもお菓子作りは本当に大変で
何度もママに手伝おっかって言われたけど
それすら断ってやっとの思いで出来上がったものを手にして学校に向かう


こればっかりは手伝ってもらう訳にはいかなかったんだよね
小学生の頃は全然理解できなかったけど
少し大人になった今ならあんなに必死になってたギュービッドさまの気持ちがよくわかる


大好きな、大切な人にあげるものだから自分一人でなんとか作り上げたいなんて
自分でもびっくりするくらい乙女思考だけど
たまにはそういうのも悪くないかもしれない






――東海寺くん喜んでくれるかな?


数日前から今日の日のことを必死にアピールしていた彼を思い出して思わず微笑む


そんなに何度も言われなくてもちゃんとチョコあげるのにね
そう思えるようになったのはつい最近のこと


それまでずっと何とかはぐらかし続けていたあたしが言える事じゃないかもしれないけど
あたしだって成長したんだから今日この日がどうでもいいなんて思ってないのに
東海寺くんの中じゃあたしは小学生の頃のままみたい



いつの間にかひっそりと膨らんでいたこの気持ちはきっと東海寺くんにも伝わってるはずなのに
東海寺くんは変なところで自信が無いみたいだ


だから今日はちゃんとはっきりさせたい
そのためにわざわざ苦手な料理を頑張ったんだもの
成功しなきゃ割に合わない



「黒鳥ーっ!」



遠くの方からあたしを呼ぶ声が聞こえる
彼の声が一瞬で分かるのも
東海寺くんを見て胸が高鳴るのも
全部全部この思いのせいだから



にこやかにブンブン手を振る彼に駆け寄って
手に持つ紙袋を差し出した



「………義理じゃないですからね」



付け加えた言葉は素直な言い方じゃ無かったけど
こんな機会でしか伝えられないけど
東海寺くんには受け止めてほしいなんて
あたし、ワガママかな?



「黒鳥、ホントにホント?」



「今更嘘つきませんよ」



「………嬉しいよ」



満面の笑みを浮かべる東海寺くんがそう思ってる事なんて分かってる
その反応だって嬉しいけれど
あたしが欲しいのはもっと別の言葉



「……言うことはそれだけ?」



「黒鳥、」



あたしの方に向き直って真剣な瞳を向けられる
ジッと見つめられて体温が上がる
自分でも信じられないほどあたしはこの人が好きなんだと自覚させられる



「好きだよ」



真剣な眼差しに射抜かれて
東海寺くんの、もう何度目か分からない愛の告白に
あたしはそっと頷いた



そらさずあなたを見てる


((ここ、正門の前なんだけど……))




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