short3

□あなたが僕の全て
1ページ/4ページ




目の前にいるのは可愛らしい女子生徒
僕に対する好意を打ち明けて、僕の返事を待っている



「……すいません」



一言そういうと顔を赤くした女子生徒が首を横に振った



「いいの、あたしが伝えたかっただけだから」



きっと勇気のいる行動だったのでしょう
心なしかその体が震えています
その気持ちに応えられない罪悪感を感じます
でも僕はあの人だけがいればいい
一路さんさえいればいいのです



そうはいうものの女子生徒の思いの詰まったチョコレートを受け取らないわけにはいかず
手元に残ったのは可愛らしいラッピングをされたチョコレートだけ
甘いものは嫌いではないからと自分に言い訳してみるけれど
このチョコレートを断れなかったのは他に理由がある



――きっと一路さんは僕にチョコレートをあげようなんて考えたこともないのでしょうね
長い付き合いの中で何度もこの日は巡ってきたけれど
一路さんが僕にチョコレートを渡したことは一度もありません
友達にあげたり、時には僕以外の男にあげたりしたこともありましたが
僕はたった一度だって、一路さんのチョコレートを受け取ったことがないのです



本当に欲しい人からはなにも貰えない
そんな自分と行き場のないチョコレートが何故か重なって思えて
残酷な優しさだと分かっていながら拒めないのです



「響也くん」



振り返ると帰り支度を済ませた一路さんが両手に荷物を抱えて立っていました



「友チョコですか?
ずいぶんもらったのですね」



「そういう響也くんもたくさんもらったのね」



断りきれなかったお菓子たちを見て呟く一路さんの表情は全く読めない
それは僕のこの思いが報われないということなのでしょうか



「荷物持ちますよ」



そう言って一路さんからお菓子の入った袋を受け取って昇降口に向かう
どうやら今年も一路さんからは何もなく終わるようです


まあ、最初から期待はしてませんでしたし
今更義理チョコを渡されるのも微妙ですから
と無理やり自分を納得させた



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ