short3

□それどころじゃない
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「ねぇ、黒鳥さんやる気あるの?」


フワフワの長い前髪の間から覗く少女マンガの世界の人のようなキラキラした瞳があたしをジッと見つめる
いつもは優しげな眼差しを向けてくれる大形くんだけど、今この瞬間だけはその目つきは鋭い
あたしにだってその理由は痛いほど分かる



「それさっき教えたばっかりだよね
覚える気あるの?」



「す、すいません……」



「謝ってる暇あるなら早く解いて」




このやりとりをもう何度も繰り返したからか大形くんの視線は驚くほど冷たい
だけどあたしは敢えて言いたい
一度教わってすぐに分かる頭脳があるならこんなことになってないって


開いた問題集にはあたしにとっては未知の数式で溢れていて
受験生なのにこれはまずいと大形くんに泣きついたのがちょうど一週間前
始めは優しく教えてくれていた大形くんも
二、三日もするとあたしのあまりの出来なさ具合からスパルタ気味になってしまった
思えば思うほど自業自得だよ、ホント



「よくギュービッドは黒鳥さん相手に頑張ってるよね」




そう言われてしまうと何も言えません
ボソボソ呟くとまた怒られると思うからそっと胸の中で考える


最近ようやくぬいぐるみをとっても大丈夫だと判断された大形くんは
ぬいぐるみレスのかっこいい大形くんになった
小学生のころでも色気たっぷりだったのに、中学生の今はもはや色気垂れ流し状態
学校で女子がショウくん派と大形くん派で二分される位の美少年っぷり
いくらあたしでもそんな大形くんを前にして無心で勉強ができるはずもなく



「集中して黒鳥さん」



それができたら苦労しないんです!
そんな近くで囁かれたら数式に集中なんて出来ないよ!
この際内容がかなりのスパルタなことは置いといて
変な気分になっちゃうじゃない



「ふぅーん、なるほどね」



あ、ヤバ
もしかしてあたし思いっきり口に出してた……?



「そっかぁ、僕は黒鳥さんと一緒な高校に行けたらと思って一生懸命教えてたのに
黒鳥さんはそんな事考えてたんだね」




マズイ、マズイよ
大形くんのその微笑み方は嫌な予感しかしないんですけど



「黒鳥さん、こっち向いて」



徐々に近づく距離に高鳴る心臓の音
大形くんの綺麗な顔がどんどん近付いてきて、あたしの顔が熱くなる

キラキラとした光をたたえた目があたしをジッと見つめる
耐え切れず思わず目を閉じた瞬間、唇に柔らかい何かが触れた
ひんやりと冷たいそれは少しして離れていったけれど



「お、お、大形くん⁉︎
い、今もしかしてもしかするとっ」



「慌てすぎだよ黒鳥さん
僕は黒鳥さんの期待に応えただけさ」



「じゃ、じゃあ今のは…………」



「大丈夫さ、僕初めてだから
ほら続きするよ」



大形くんはそう言って元の位置に戻ったけれどあたしのドキドキは収まることもなく悪化していく一方で


ーーあたしだって初めてなんですけどっ‼︎



どうやら今日は余計勉強に集中出来なさそうです



これ以上ドキドキさせないで!

(勉強どころじゃなくなります)



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