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□引き金を引いたのは
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一歩踏み出して肺に新鮮な空気を取り込む
先ほどまでの淀んだ空気が少し綺麗になった気はするけれど、どこもかしこも似たようなものだ
目を閉じれば広がる真っ赤な世界
それもこれも僕と君の世界のためなんだ

なのにどうして君はそんなに怯えているんだい?
小さな体を縮こませ、震えて僕を見つめる瞳は恐怖の色に染まっている
一歩僕が近づくたびに後ずさり
さすがの僕でもそれはちょっと傷つくよ



「ほら、こっちにおいでよ」




差し出した手が汚れていることに気付き、慌てて着ている服で拭う
服自体汚れているからあまり意味はなかったかもしれないけど
もしかしたらこの服が気に入らないのかもしれない
そりゃそうだよね、こんなに汚れてしまったら君を汚してしまうから抱きしめるのも躊躇われるよ


呪文で新たな服へと着替えた僕を尚も怖がる彼女を見て僕には一体どういうことなのか理解ができない
ほら見てよ黒鳥さん
君の望んだ通りにしたんじゃないか




「あたしはッ、こんなこと望んでなかったよ……!」



黒鳥さんの目からこぼれ落ちる涙を手で拭おうと近付いてはまた一歩下がられる
僕は全て君のために行動してるのに
どうしてそんな僕を拒絶するの?




「黒鳥さんが言ったんじゃないか
“こんな世界なんてもういらない”って」




「確かに言ったけど、そんなつもりで言ったんじゃないよ!」




「同じことだよ、少なくとも僕にとっては」




僕は常々、黒鳥さん以外いなくなればいいのにと本気で思っていた
むしろ黒鳥さんが僕の世界の中心で周りはそれにくっついてきたいわばおまけのようなもので
だけど黒鳥さんはそんな世界を愛して信じようとしていたから僕はギリギリのところでとどまれたのに




「分かってよ黒鳥さん、」




君が世界を見捨てた瞬間、僕を止めるものは何もなくなった
迷いなんて少しも感じなかった
ただただ、ようやく黒鳥さんの役に立てると思っていただけで


どう頑張っても慣れることのできない死の匂いが鼻にまとわりつく
きっといくら洗い流しても忘れることのできない独特の匂い
だけど何故か意識は高揚していて
よっぽど僕は黒鳥さんの役に立てたのが嬉しいのだろう
それともとうとう僕もおかしくなったのか




「手遅れだよ何もかも」




だって僕はもう、君の愛した世界をこの手で壊してしまったんだから





引き金を引いたのは確かに君だった







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