short3

□答えは私の胸の中
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Attention!
姉弟間での恋愛描写があります
苦手な方はbackしてください






深く考える暇もなく私の目の前の景色が変わった
視界いっぱいに広がる重の顔とその後ろに見える白い天井
状況だけを端的に述べるならば、私は重に押し倒されているのだろう
状況は分かったが、どうしてこうなっているのか理由が分からない


「こういうことは好きな女の子にやりなさい」


姉として一言言ってやらねばと思い口に出した言葉も重にスルーされ、ますますわからない
分からないことは嫌いだ、だから何でも辞書を引いて答えを探した
傲慢だとは思うがこの世にあるものすべてが分からないことが怖いのだ
だからこの状況は非常にまずい
いつだってそばにいた私の半身ともいえる存在の重の考えていることが分からないだなんて、今までで最大級の恐怖だ


「怖いの、姉ちゃん」


訪ねてくる割に重は確信ありげだった
私が重の考えていることが分かっていたように、重だって私のことなどお見通しのはずだ
分からない状況が怖いということも十分に知っているのだろう
じっと重の目を見つめると、私と同じ色をした瞳にはおびえた顔をした私が映り込んでいた
重が坊主頭にしだしたころからはあまり言われなくなっていたが、二卵性だとはいえ私たちは双子だ、小さい頃はよく間違えられたりもした
そんなよく知っているはずの重が知らない人のように思えてなぜか底知れぬ恐怖を感じた


「姉ちゃん、俺はね、姉ちゃんだけがすべてだったんだ」


なあ、重
それは私のせいなんだ
私が幼いころから百科事典ばかり読みふけり、周りとはなれ合おうとしなかったから
どんどん孤立していく私を心配して、やさしい重がいつも一緒にいてくれただけ
“姉ちゃんがじぶんのすべてだ”とでも考えてなきゃやりきれなかっただけだろう
だからその感情は重の本当の気持ちじゃないよ


「あんたは思い込みがはげしいから」


「違うよ、そんなんじゃない」


「違わないでしょ、現に重は私がいなくても学校でやっていけてるじゃない」


皮肉なことに重がいないとダメなのは姉である私のほうだ
重がいないとクラスに溶け込むことすら難しい


「ほんとにダメなんだ
姉ちゃんがいなくなることを考えたらぞっとする」


「家族だからね、当然よ」


「…家族だから、じゃない」


不意に重が私の体を抱き寄せた
重のぬくもりが私に伝わると同時にせわしなく動く心臓の音が聞こえる

重、あんた一体何を言うつもりなの
私はあんたのことよく知ってるつもりだから、少しだけ分かる
あんたが言おうとしていることは、言ってはならない禁じられた呪文
口に出せばガラガラと崩れ去っていく
重はそれでもいいの?


「姉ちゃん、好きだ」


それが家族に向けた愛でないことは、嫌でもわかる
重の真剣な表情が何よりの証拠だ
だけどそれにこたえることは許されることではない
私たちは血を分けた、正真正銘の姉弟なのだから


「姉ちゃん、か」


「俺は真面目だよ」


「私も真面目だ」


「じゃあ、何とか言ってよ」


悲しいかな、いけないとわかっているのに私には重を拒絶することなどできないのだ
たった一人の私のよき理解者をこんなことで失いたくない
拒絶はそのまま重がいなくなることを意味していると知っているから


「私を“姉ちゃん”とよばなくなったら、考えてあげる」


何より、私のなかに重の気持ちを受け入れないという選択肢はないのだ



私もあんたに依存してるんだ



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