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□そんな未来を待ち望んで
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一目見て分かった
君は僕の知らないところで生きている人間だと
冗談のようにかけた言葉に対する慣れた対応で僕は確信する
僕ではないけれど限りなく僕に近い人間が君のそばにいるのだと

すっとぼけて口説いては見るけれどそれは決して本気ではない
考えてもみてくれよ
成人済みの僕とせいぜい十歳くらいの女の子ではあまりにもあり得ない
僕は光源氏の真似事をするつもりもないしね
僕の言葉に一々反応してくれる彼女をみていて感じるのは色めいた感情ではなく彼女を見守る父親に近い感情


「ありがとうございました、東海寺く…いや東海寺さん!」


失礼しますと言い残して走り去って行った君にもう会えることはないと何と無く悟った
悲しくはない
本来なら見ることの出来なかった存在がなんの悪戯か僕の目の前に現れただけ


「不思議な子でしたね」


鳥居くんのそんな一言になにを言うでもなく、僕は曖昧に微笑んだ






息子に孫が生まれたと聞かされた時、ああこの時代だったのかと気が付いた
僕にとっての初孫である阿修羅は僕にそっくりだった
このまま成長すれば僕の生き写しといえる存在になるのだろう
ただ、あの時の黒鳥さんの年齢を考えるに僕はその姿を見ることが出来ないみたいだけど
息子には全くといっていいほど感じられなかった霊力を阿修羅から微かにではあるけれど感じ、かつての僕の予想はきっと当たるのだろうと確信する


「父さんどうかしましたか?」


「いや、うれしくってな」


息子は僕のその言葉を文字通り受け取ったみたいだけれど、僕の喜びは少しずれている
あの日出会った彼女を幸せにするのは僕の孫かもしれない
一瞬しかあっていないのにそれに喜びを感じるくらいには、僕は黒鳥さんのことを気に入っていたらしい



「頑張れよ阿修羅」



僕はきっとそこにはいないだろうけれど
僕のところに彼女を連れて報告してくれる日がくると信じているよ



あの日芽生えた親心


幸せにしてやれよ



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