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□乙女思考は通じない
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暑苦しい
そうこぼすと目の前の幼馴染は心底不思議そうな顔をした
「まだそういう季節には早いと思うんだけどぉー」
季節の話ならどれほど良かったことか
メグは顔を引きつらせたあたしを見て尚も不思議げな顔をする
あたしの頭を悩ませているのは外気温なんてかわいいものじゃないのだ
最近持ちだした携帯電話で時刻を確認し一刻も早くここから離れなければと気付く
今離れたところで学校に着いたら会ってしまうから意味はほとんどないけど、それでも暑苦しい時間はできるだけ短い方がいい
あたしの平穏が崩れる時間が刻々と迫っていた
遠くの方からあたしの名を呼ぶ声が聞こえてくる
よくもまあ毎朝恥ずかしげもなく呼べるものだと感心すらしてしまう
最初は大声で名前を呼ぶなと訴えたものだけど最近はそれは諦めがついてしまった
「チョコ呼ばれてるよぉー」
「無視です、無視」
どうせ無視したところでまとわりついてくるんだから応えるだけ時間の無駄だ
足早に学校に向かうあたしをよそにメグは後ろを振り返り大きく手を振った
「おーい!おっはよぉー」
「ちょっ、何してるんですか!」
「無視は可哀想じゃなーい」
いつもだったら、あのメグがそこまで気を遣えるようになるなんてと感動する場面なのかもしれないけど
今は状況が状況なだけにそんな悠長なこと言ってられない
どちらかといえばなにしてくれてるんだという気持ちの方が強いのは仕方ないことだと思う
だんだん近づいてくる足音を聞きながらあたしはゆっくりと心の準備をする
「おはよう黒鳥っ!」
あたしの方をみて笑うその顔は割と気に入っている
彼のいいところは何も考えてなさそうなその笑顔だと思う
「今日はツイてるなぁ、朝から黒鳥に会えるなんて!」
「何言ってるんですか。毎日会ってるじゃないですか」
主に東海寺くんが目敏くあたしを見つけて付きまとってくるからなんだけどね
最初の頃はそれから逃げようともしてたけど、運動音痴の上に体力もないあたしが平均的とはいえ高校生男子の運動能力や体力を持ってる東海寺くんから逃げるなんて無理だと悟ってからは逃げようとするのはやめた
見つかる前に学校に行こうとはするのだけど何故か登校途中で必ず見つかるからもはやストーカーに近いんじゃないかって思う
「今日も黒鳥は可愛いなぁ」
「ハイハイそうですか」
「ちょっとぉあたしはー?」
「紫苑は別に俺にどう思われようが関係ないだろ?」
「関係なくても可愛いのはあたしだしぃ」
「あたしも東海寺くんにどう思われようが関係ないですよ」
「またまたー。照れなくてもいいよ黒鳥」
東海寺くんのふざけたような言葉に内心ドキッとする
照れてるわけじゃないけれど、ホントはちょっと気になるのだ
いつもあたしに可愛い可愛いという東海寺くんが本当はどう思っているのか
絶対そんなこと口が裂けたって言えないけれど、どうやらあたしは大分東海寺くんに絆されてきているらしい
「それよりさ、黒鳥。この前も俺言ったよね?」
「……それこそ東海寺くんには関係ないです」
ああ、またこの話題か
最近東海寺くんは顔を合わせる度にこの話題を振ってくる
「黒鳥には危機感がないんだよ!そんな短いスカート履いて!」
最近東海寺くんは生活指導の先生も真っ青なくらいにあたしのスカート丈が短すぎると主張するのだ
厳しいと有名な我が校の生徒指導部だってここまで口うるさくない
というかあたしのスカートはそんなに短いわけでもないのだ
校則には膝が隠れるほどとあるところを膝上ギリギリにしている程度のスカート丈は正直これでもまだ相対的に見れば長い方の部類に入る
隣を歩くメグなんて膝上10センチ以上の丈で、毎日生徒指導の先生とバトルを繰り広げているがそれに比べればあたしなんてまだまだだ
「メグの方が短いよ」
「そうだけどっ!俺は黒鳥が心配なんだって!」
「心配なんていらないよ。あたしだし」
「だから危機感が足りないって!変な男に目をつけられたらどうするの!」
現在進行形でつけられているようなものだとは流石のあたしも言えなかった
だいたい東海寺くんはそう言うけどこのあたしに目をつけるような物好きーー自分で言ってて悲しいけどーーがそうそういるとはどうしても思えない
「何言ってるの!いたじゃん今まで!
麻倉とか大形とか速水とか」
「麻倉くんたちはそんなことする人じゃないですよね」
「そうなんだけど!
とにかくスカート伸ばしてよ」
「絶対嫌です」
「何でだよ黒鳥ぃ」
「いいじゃないですか別に」
「だいたい黒鳥そんなに服装とかにこだわりないじゃん。なんでスカート丈にはそんなに頑ななの!」
なんでって言われても答えにくい
別にあたしも何もこのスカート丈がいいってわけじゃないんだよ
あんまり長いと鬱陶しいからというのが理由の大部分を占めるのだけど、
『俺はあれくらいの長さが好みかなぁ?』
1ヶ月ほど前に偶然聞いてしまった東海寺くんの好みにすこしでも近づきたいということも理由の一部だってことを多分彼は気づいてないのだろう
乙女思考は通じない
(きっとあたしの気持ちも同じものだなんて夢にも思ってないのだろうね)
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