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□月は太陽の夢を見る
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pixiv投稿作




僕はどちらかといえば夜が似合う人間なのだろうと思う
それは僕の趣味からそう言うことができるとも言えるし、趣味に由来する昼夜逆転生活も僕に夜のイメージを植え付けるのだろう
だけどもそれ抜きにしても本質的に僕、葉月星夜には夜が似合う


夜が似合うねと言われることに不満はない
僕は自分の名前を気に入っているし、僕の大切な女の子が僕の名前が綺麗だと言ってくれたこともある
昼間の喧騒とはかけはなれた、静かに星たちが輝く夜が僕は好きだから
それでも僕はたまに羨ましくなるのだ
まさに太陽の申し子のような昼間がよく似合う日向太陽という男が




日向は僕にはないものをたくさん持っている
例えば運動全般に対する熱意とそれを助ける圧倒的な身体能力
すこし熱すぎて若干煙たがられてる彼の熱さは決して僕にはないものだ
運動に特化し過ぎている感は否めないけれど、何処かが秀でているというのはそれだけで素晴らしいことだと思う
明るくて運動神経抜群な日向はどうやったって輝かしい存在だ
誰からも愛されるとまではいかなくても世間一般からは好ましい感情を持たれる彼はまさに昼がふさわしい


いわゆる無い物ねだりだということは知っているさ
どうしたって僕についた夜のイメージを真逆に変えることなど不可能だしその逆もまた然りだ
だからか僕は惹きつけられる
あのギラギラとした真昼の化身のような男に



何故日向と仲良くするのかとよく尋ねられるが僕の本音を話したのはこれで二人目だ
僕の大切な女の子と、いま僕の目の前にいる日向が大切にしている女の子
ほかの誰にも知られたくない心の奥の感情を打ち明けることができるのは楠木さんだけだと思っていたけれど、日向に関わることならば彼女にも知る権利があるだろうしなんとなく鈴風さんには知っておいてほしかった



「葉月くんって思ったよりロマンチストだな」


「そりゃ天体観測が趣味なくらいだし」


「それもそうだな」



ガハハと昔のように豪快に笑う鈴風さんを見るのは随分久しぶりだった
代わりに本当に幸せそうに微笑むようになった気がする
それもこれも日向のおかげなのかと思うと、やっぱりあいつが羨ましい



「だけどさ、そんなに羨ましがることないんじゃないか?」


鈴風さんのその言葉に思わず目を見開く
見開いたところでどうせ見えやしないのだけれど、それにしても意外でならなかった
名の通り彼は鈴風さんの世界の太陽なのだと思っていたから、鈴風さんの口からそんな言葉を聞くとは思えなかったのだ


「日向くんはあの通りお馬鹿だろ?」


「よくも悪くもって感じだな」


「日向くんに足りないものを葉月くんは持ってるだろ?」



そりゃ全部とは言えないけれどと鈴風さんはお下げ髪を揺らして幸せそうに微笑んだ



「それに葉月くんは“星”なんだろ?
それなら太陽だって同じ星じゃないか」


太陽だって広い宇宙で見れば小さな恒星の一つじゃないかと知っていたことなのに改めて他人から指摘されると視界が開けたような気分がした
ギラギラ熱いあの男も、夜が似合うと言われる僕も根っこの部分は変わらないのだろうか?

ああでも、
僕も日向も大事な女の子への熱意はきっと変わらない
その表現はあいつと僕では真逆なんだろうけど



「日向も僕を羨ましがるのかな」


「さあどうだろうな」



鈴風さんはそんなことを言っていたけれどその笑顔が答えな気がした





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