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□黒縁眼鏡はねむらない
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*よくわからない2人




「里嗚ね、ホントはね」




耳元でアイツの声がして目が覚める
いつの間にか珍しく眠ってしまっていたらしく机に伏せている俺に向井は甘く囁きかける




「お菓子よりも、何よりも、」




いつになく真面目な声に先を急かしたい衝動に駆られる
いったい向井は何を言おうとしているんだ
俺のはやる気持ちとは裏腹に向井はなにもいわない


向井は俺が耳にしている鼓動がどちらのものか分からないほどに近くにいる
いい加減離れろと言いたいところだが向井の言いかけたことが気になってそれどころではない
だいたい俺が寝てると思って話しかけたんなら早く用件を言え
完全に起きるタイミングを失った俺はどうしたものかと考えていると




「好きなの」



その一言で体が固まった
待て、落ち着け
大事なのはこの後だ

向井が“お菓子よりも何よりも”好きなものなんてそうそうあるもんじゃない
俺は向井の言葉を聞き逃さなかった筈だ
となると肝心のそれが何なのかについては今から触れるのだろう


だったら待ってやろうではないか
向井がそれが何なのか俺に囁くまで



ふと甘ったるい匂いが強くなり
人の気配が強くなる




「与那国くん好きだよ」




向井の口からこぼれ落ちた名はまさしく俺のもので
予想だにしていなかった答えに寝たふりをしていて良かったと感じる
だってこれ、面と向かっていわれてみろよ
絶対驚きすぎてなにもいえない



向井も例にもれず三条に好意を抱いているとばかり思っていた
だから俺は驚いたんだ



急に気配が遠のき足音がして消えてゆく
残されたのは相も変わらず机に突っ伏したままの俺と甘い残り香



「――言い逃げか」



上等じゃないか
そう呟いて立ち上がる


幸いな事にアイツの考える事なんてだいたい分かる
今まで俺が分からなかったことなんて、アイツが俺に好意を抱いていた事くらいか


追いかけるなんて柄じゃないからアイツを俺は見つけだしてやろう




悪いが逃がす気なんてない





title*ねむりのよろこびのなかで
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