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□押し殺した言葉が綻ぶ
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*微妙にこれの続き





貴女が泣いている
まるで神様が僕の決意を試すかのように



ふいに顔をしかめる仕草ですら何を意味するのか分かるようになった今日この頃
僕は依然として貴女のそばにいることを赦されています
本当は僕なんかでは釣り合わないような貴女の隣にいられるだけで幸せなことなのに、これ以上何を望みましょうか


心の奥底に眠る僕のあの感情を押しつけようだなんて、図々しいにも程があるというものです
この際二人の関係性なんて気にしていられません
ただただ貴女のそばにいたいのです



そう決意した筈なのですが
そんな僕に揺さぶりをかけるかのようなこの状況
一体僕はどうすれば、現状を維持出来るのでしょうか




いつの間にか追い越してしまった華奢な体を抱きしめたいという邪な心を抑えつけて
僕は一路さんに問いかけます



「何がそんなにも悲しいのですか?」



「なにいってるの、悲しい事なんて、ないわよ」



一路さんは確かにそう言って微笑みましたが僕はそれが彼女の強がりだと知っています
他の誰かならまだしも僕の目を誤魔化せるなんて本気で思ってるんですか?
僕も見くびられたものですね、と思うと同時に今まで見くびられてなかった瞬間なんて無かったと思います
悲しいですがこれが僕がおかれている現実なのですね



「ですが、」



「何、響也くん口答えするわけ?」



きっと僕を睨む瞳に悲しみの色が宿っていて
一路さんの言葉にはチクチクと僕を刺す棘があります



僕は知っているのです
貴女の言葉の棘が僕を傷つけようとするためのものでなく、貴女自身を守るための物だということを

そんな一路さんを愛おしく思う反面、それでも痛いと叫ぶ僕の心を知ってほしいとも思います
でもそれは一路さんにとっては迷惑な事だから僕は何も言えません



「響也くんも、いいわよ」



唐突に吐かれた言葉がひどく耳に残る



「あなたもあたしと一緒にいる必要が無くなったら清々するでしょう?」



一路さんの顔は笑っていたけれど、心が泣いていた
誰かに“いらない”と言われて本当は泣き出したいのに、強がりな一路さんはそれすらも出来ないのですね



「あら、響也くん迷ってるの?
いいのよ別に、あたしなんて………「迷ってなんかいません」」



珍しく、本当に珍しく僕は一路さんの言葉を遮った



「どこの誰に言われたのか知りませんが、僕をそんな馬鹿と一緒にしないでください」



一路さん、この僕が貴女を必要ないと思うわけがないじゃないですか
僕は貴女がいないとだめだと知っているでしょう?
それとも僕はそれ程の信頼を得られていなかったのですか



「分からないわよ
今はそうでも明日には必要ないと思うかもしれないわ」



「そんなことはあり得ません」



「人の心にあり得ないことなんてないわ」



「………お願いですから、」



僕は一体何を言おうとしているのでしょう
その言葉は言ってしまうと全てが変わってしまうかもしれないのに
だけどもう手遅れですね
僕の口は僕の意志とは裏腹にその言葉を紡ぎ出す




「僕に甘えてください」






強がりの裏を見せてほしい

(これは、賭ですね)




title*寡黙

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