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□寂しがり屋な月
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暗い道を一人歩く
頭上には星がきらめいていて今日は月が出ていないのかと嬉しいような淋しいような複雑な気分だ
前に星が綺麗に見える日には月がみえないと本で読んだ
月は星たちに比べて明るすぎるから満月の日なんかだと月の輝きで他の星が見えないらしい
いつ頃読んだのかすら曖昧なその話を未だに覚えているのはきっと、俺がそのとき月が可哀想だと口にしたからだろう
昔から子供らしい子供では決してなかった俺は親から心配されるほどで
そんな俺が放った珍しく子供らしい言葉に周りが大騒ぎしていたのを覚えている
いまはもう、ひとり輝く月を可哀想だとは思わないけれど
それでも満月の日は好きになれない
だから、今日は月が出てなくて嬉しい
――だけどどこか物寂しい気がするのはどうしてだろうか
きらきらと輝く夜空を見上げながら俺は一歩を踏み出す
自分の足音以外なにも聞こえない、その足音ですらアスファルトに吸い込まれていく
しばらくの間俺は静かなこの空間をひとり楽しんでいた
ふと聞こえた俺以外の吸い込まれてゆく足音が
何故か聞き覚えがある気がして足音がする方向に体を向けると
「あ、速水くん……」
「黒鳥か、何やってんのこんな時間に」
「ちょっとね、
速水くんこそ何してるの?」
「散歩」
せっかくひとりを楽しんでいたのにとは思うけれど
それほど嫌悪感を感じないのは相手が黒鳥だからだと思う
黒鳥はほかのヤツと違って俺がひとりになりたいということを心底理解してくれる
だからか隣にいても違和感を感じない
「黒鳥も来るか?
ついでにおくる」
「いいよ速水くん迷惑でしょ?」
「……べつにそうでもない」
隣にいても不快じゃないならばたまには誰かと一緒にいるのもいいかと思ったんだ
だから、迷惑なんてそんなことないよ
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