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□寂しがり屋な月
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じゃあお言葉に甘えて、と俺の隣を歩き始めた黒鳥
学校で見るのとは違う普段の生活を垣間見た気がして優越感らしきものをおぼえる
今日は月も出ていないのにそんな暗闇の中でもはっきりと分かるほど白い腕を今まで意識した事なんてなかったのに、
それもこれもこの満天の星空の中にいる影響だろうか



特に行くあてがあったわけでもないからとりあえず黒鳥の家の方向に向かう
実際に行ったことはないけれど大体の方向くらいなら覚えていた



「どこへ行ってるんですか?」



「さあ?」



「さあって……何か速水くんらしいですけど」



クスクス笑う黒鳥の表情は今までに見たことないものだったけれどそれでも俺の心はそれを心地よいと感じている


―――黒鳥は、やっぱりいい
俺をこんな気持ちにさせるのは今のところ黒鳥だけだ
伝えたら黒鳥は判断に困るだろうから言わないけれど







「次どっち曲がるの」



「あ、えっと右です」



住宅街に入ってからは家々から漏れる灯りが空の星を隠してしまった
何とも勿体無いことだ
せっかくこんなにも綺麗なのに


そんな話をしたらきっと「ロマンチストですね」と笑われるのだろうけど、
きっと俺は黒鳥になら笑われても構わないんだろうな





黒鳥に家への道を尋ねる以外に俺たちの間に会話はない
チラリと黒鳥の表情を伺ってみたところ特に不満げだとかそういう感じではなかったので少し安心する
俺自身会話するのは得意じゃないしそもそもひとりでいたいタイプの人間だと自負している
だからこその沈黙なのだけどそれに黒鳥が文句を言う様子もないことが嬉しかった



「もうそろそろ着きます」



黒鳥の宣言通りそれからすぐに彼女の家へとついた



「あの、ありがとうございました」



ぺこりと頭を下げて家の中に向かおうとする黒鳥
俺はその姿にひどく焦燥感を感じて気がつくと彼女の白い腕をとってしまっていた



「……どうしたんですか、」



「……なあ黒鳥、」



声をかけたはいいものの、何を言うかは全く考えていなかったので言葉に詰まる

最初きょとんとしていた黒鳥だけど途端にクスクス笑い出して、




「速水くんって案外寂しがり屋なんですね」



大丈夫ですよ、明日も学校で会えますから



そう続けた黒鳥には俺は一生叶わないんだろうなと何故か納得してしまった





違和感がないのはどこかで追いかけてるからで



(やっぱり黒鳥はいいな)




title*きくびより
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