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□どうぞ馬鹿だと微笑んで
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秋はなんだかあまり好きになれない
いろんなことを思い出してしまうから
最も大きな事で言えばあのハロウィンの時のことだし
そうでなくてもあたしを感傷に浸らせるには充分すぎる



信じていた、最も信じていたかったあの人の行動を思い出すといまでも胸が痛む




―――好き、なんだよなそれでも



色付いた木の葉が秋の冷たい風に吹かれてチラチラ舞っている
いっそあたしの思いもこれくらい簡単に消えてなくなってしまえばいいのに
思いを忘れる辛さも知っているけれど、それを厭わないくらいにはあの人を思い続けることも辛い



あたしの想いをはっきり伝えたことはないけれどあの人は知ってるんだと思う
それを言わないのはあの人の優しさで、でもあたしがそれに救われているのかと言えば多分違う


暗御留燃阿なんかは『エクソノーム様は大人だから』と言うけれどあたしはそんな答えでは満足できやしない
あたしが本当に欲しいものは決してそこでは得られないと知っているから





すみませんエクソノーム様
あなたがせっかくあたしたちの関係を守ろうとしてくださっているのに
あたしはそれでは満足できないのです


玉砕なのは分かっています
どうぞ馬鹿だとお笑いになってください
ですがあたしにはもう耐えられません




「先輩っ!大変です!!」



バッと部屋の扉が開いたかと思うと後輩の桃花ブロッサムが勢いよく飛び込んできた
よほど急いできたのか息があがっていてあたしも思わず身構えてしまう



「たった今そこで悪魔情から預かって来ました!
とにかく読んでくださいっ」



そう言って手渡された真っ白な封筒には死の国の王家の紋章が描かれていて
つまりこの封筒の差出人は紛れもなくエクソノーム様だ



桃花に急かされて慌てて封筒の封を切る
中に入っていたこれまた白い紙を持つときには手が震えた




“すまない、後もう少し待ってくれないか?”




その言葉を見た瞬間やっぱりあたしはいつまでもあの人には勝てないのだと思った
あたしの決死の覚悟ですら、あの人の予想の範囲内
優しさがここまでくるとなんだか寂しい気がする



「先輩……?」



何も言わないあたしを見かねた桃花が声をかけてくる
ピンク色の目が不安げに揺らめいていて



「やっぱりあの人はスゴいなぁ」



そう言ってあたしは笑顔を作った
うまく笑えてないかもしれないけれど
その気持ちに嘘はないから





――優しくされるたびあの人が遠くなっていく気がした




いつまで待ち続ければいいのですか?



読み飛ばされた小さな気持ち



“後少ししたらその時は――――”






title*寡黙
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