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□初恋を始めましょう
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門を飛び出したところで人影が見えた
もしかしたら新しいお客さんかもしれない
だけどどこか懐かしい雰囲気がする




「……黒鳥!?」



俺はその人に駆け寄る
なんとなく黒鳥なんじゃないかなと思ったから




「東海寺くん……ですよね」



彼女は間違いなく黒鳥だった
十年位会っていなくても俺には分かる
背は少し伸びて髪型も変わったみたいだけど纏っている雰囲気が間違いなく黒鳥だ
相変わらずの白い肌に思わず今までにない衝動を感じる



―――触れたい、目の前にいる愛しい君を抱きしめたい



見ると黒鳥は目を丸くして驚いていた
そんな顔も可愛いなと思いつつどうしたのと尋ねると




「東海寺くん、加楼羅さんソックリじゃないですか」



「それ、よく近所のおじいちゃんに言われるけど……
どうして俺の爺ちゃんのこと知ってるの?」



「あ、いやえっと……」



途端に黒鳥があわて出す
小学生のころから変わってなさそうな彼女を見てつい笑みがこぼれた



「まあいいよ黒鳥」



本題はそこじゃない
やっと君に会えたのだからそんな隙はない
逸る心を制しつつ彼女の目をじっと見つめる


あの頃は上手くいかなかったけれど今度は絶対に間違えたりしない
自分でも気付かぬうちにこの十年位の間の想いはいつの間にか溢れ出しそうなくらいまで募っていた





「好きだ、黒鳥」





だからお願いだから届いて
もうあんな思いなんてしたくないよ




「………あたしは、てっきり」


黒鳥が少し俯きながら語りかける
表情が見えなくて彼女が何を思っているか分からなくて怖い




「もう、忘れられてるかと思いました」




その言葉とともに感じる重み
黒鳥が俺の方に体を預けてきていて、久しぶりの黒鳥を近くで感じて俺はほとんどパニックに陥った
よくよく聞くと黒鳥の声は若干の涙声で
わずかな俺の中の冷静な部分が黒鳥の次の言葉を聞くようにと俺を押しとどめている




「まだ東海寺くんがあたしのこと好きなら」









「もう一度だけあたしにチャンスをください」





そう言った黒鳥の言葉の真意を確かめることもなく俺は彼女の華奢な体を抱きしめた



――ねぇ黒鳥、そんなこといわれたら期待しちゃうよ
俺片思い歴長いんだから都合よく解釈しちゃうけどそれでもいいの?
今だって抵抗しないから俺は希望を持ってしまうよ



信じて、始めていいんだよね




ちいさく腕の中の黒鳥が頷いた気がした




僕らの初恋をもう一度だけ



「ところでさ、さっきからいる黒コートの女の人誰?」


「えっ!?東海寺くん見えるんですか?」






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