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□幸せの裏側で
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*高校生くらい



面倒くさいなんて不謹慎かもしれないけど考えちゃう
だいたいテスト期間中に放課後残って委員会のお仕事だなんて凛音ちゃんじゃないけど“ツイてない”わ



珍しく、本当に珍しく起きている葉月くんと二人で渡り廊下を歩く
起きている葉月くんはなかなかいい人で話上手
たまに星や宇宙の話が専門的になりすぎて分からなくなることもあるけどそれはご愛嬌だ




「桜田さんは最近どうなの?」



不意に投げかけられた質問に一瞬ドキッとする
そんなわけないのに、葉月くんにあたしの心が見透かされたのかとつい考えてしまう



「そうね、大分理想に近付いてきたわ」



「スゴいね」



「でもまだまだよ、もっとみんなに美味しいって言ってもらえるものをつくらなきゃ、」



そこまで話したときに前方に人影が見えた
体温がスッと下がるのを感じる
あたしが見間違うはずもない、あれは………



「あ、東海寺だ」



「そ、そうね」



葉月くんに言われなくてもすぐに分かる
だって、あたしはずっと、



「いいねあの二人、羨ましいよ」



葉月くんがそう言うくらい幸せそうな東海寺くん
あたしも、ほんと羨ましい
あたしが感じている羨ましさと葉月くんの言う羨ましさのベクトルは全く違うのだけど



このままだとあの2人と確実にすれ違う
そうなると話しかけないのも不自然だし、現に葉月くんは話しかけたそう
あたしはちゃんと2人を見れるのかなと思ってみたりもして



「あ、杏ちゃん!星夜くん!」



意外にも最初に声をかけたのはチョコちゃんだった
脳内で会話をシュミレーションしてたあたしの計算が早くも狂う
こういう時真っ先に話しかけるのはお喋りが好きな東海寺くんだと思ってたから



「どうしたの?2人とも」



多分あたしと葉月くんが一緒にいるのがよっぽど珍しく見えたんだと思う
放課後に2人で校内を歩いてたらそりゃビックリするのも無理ない



「委員会の仕事でね……」



「そっか、大変ですね」



少なくともあたしたち2人に対する誤解は解けたみたい
あたしはほっと胸を撫で下ろす

それは葉月くんが嫌だとかそういう訳じゃなくてもっと単純で、今となっては意味のないこと



「相変わらず仲いいね」



「でしょ!
聞いた、黒鳥?俺たちお似合いだって!」



「いや、誰もそうとはいってないですけど」



「やだなー黒鳥ってば
照れなくてもいいのに!」



東海寺くんのそのセリフにチョコちゃんは大きくため息をついたけど
あたしがみる限りその表情は幸せそうで



「………爆発すれば?」



葉月くんからそんな言葉が出てくるなんて思わなかったから驚いた
だけど同時にその言葉に救われた


こんな汚いこと考えてるなんて誰にも知られたくないし知られてはならないから
特に目の前にいるなにも知らない幸せそうな彼には、絶対に



「葉月ってばヒドいなぁ
おめでとうくらい言ってくれても良いだろ」



「確かに良かったとは思うけどノロケられる筋合いはないよ」



「ノロケてないんだけどなぁ」



そう言って笑う彼はどれほどあたしの心を抉れば気が済むのだろう
誰も何も悪いところなんてないのに、誰かを責めたくなる



「もう、東海寺くんってば!
ごめんね杏ちゃん葉月くん」



小さく手を振りながら東海寺くんと一緒にあたしたちが来た方向にチョコちゃんは進んでゆく
深い意味はないのだろうけど
いまのあたしには“ごめんね”が違う意味にしか考えられなかった



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