short2

□染めることはできない
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かつて君をよく知らない頃
君は限りなく綺麗な黒だと思っていた
何にも染まらずただ美しくその場に佇む、そんな黒鳥さんを好きになった
彼女なら、僕の壊れた感情にも染まらないだろうと信じて疑わなかったんだ



いつの日か忘れてしまったけれどはっきり覚えているのは君の悲しげな横顔
幼なじみを悪く言われているのを偶然聞いてしまって静かに泣いていた
頬を伝う涙は僕が今まで見たことがないくらい綺麗なものだった





その日以来僕は彼女のイメージがはっきりと掴めなくなった
いつも一人でも平気だと言って実際そうやって行動している黒鳥さんとあの日みた涙を流す黒鳥さんがどうしても結びつかなかったから
どちらも黒鳥さんらしいなんて思うから余計に分からなくなる



「僕はどうしたらいいのかねぇ?」

「分からないんだねぇ」



「何が、ですか?」



君を好きになった理由
それを見失ってしまったら君までいなくなるような気がして
だからかつい口から零れ出た言葉


「最近黒だと思ってたものが違ってみえるんだねぇ」



「はぁ、」



案の定彼女は全くわからないといったような表情を見せる
分かってもらう気なんて初めから無かったからそれでよかったはずなのにどうしてこんなにも苦しいのだろう



「分かっていたつもりだったんだけどねぇ」

「まだまだ甘かったのかねぇ」



「そんなものですよ
あたしだって未だにメグのことよく分かりませんもん」



紫苑さんを完璧に理解できる人なんてこの世に存在するんだろうか
それと同じように目の前の彼女を理解できる日は来るのだろうか
僕には分からない



「でもあたしは何て言われようともメグを信じてます」



強い言葉とは裏腹に何かに迷っている黒鳥さん
僕に言っているというより自分自身に言い聞かせているようにも感じる
そんな彼女の表情を不意に愛しいものだと思った
黒鳥さんを守りたいと心のそこから感じた



そうか、今まで黒鳥さんは何にも染まらない“黒”だと思ってたけど実は正反対なんだ
余りにも純粋すぎて染めてしまうのを躊躇うほどの美しい“白”
彼女の本質は間違いなくそこにある


白では決してないけど黒でもない曖昧な僕には少し眩しすぎるけれど
それでも、いやそれだからこそこんなにも追い求めているのかもしれない



「……厄介な相手なんだねぇ」



僕の言葉の意味が分からずキョトン顔な黒鳥さんにこの思いを伝えるのはどうやら先になりそうだ



どちらにせよ彼女は彼女のまま





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