short2

□どこかで歯車は狂っていたのに
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目の前にいる人はホントにあたしが知ってるあの人なの?


普段の何も考えてませんっていう雰囲気はどこへやら
あたしを睨みつける紫苑メグさんの顔は鋭く冷たい



「しょーじきぃ、あなたが東海寺が好きなのはいいことだよぉ?」


いつもと変わらぬフワフワした口調だけど小さな棘が突き刺さる



「麻倉の妹が麻倉大好きっ子だろうがあたしには関係ないしぃ
むしろ邪魔してくれてラッキーってくらいなのぉ」



――だったら何であたしは今こんな目を向けられてるの?
体の奥底から湧き上がる恐怖
いくら相手が上級生でもあたしはこれほどは怯えない
向かい側にいる紫苑メグさんがそうさせるほどの眼差しをあたしにむけているんだ




「だけどねぇ」







「チョコを傷つけるのは許せないな」



一気に冷え込む場の空気
よりいっそうメグさんの視線が冷たくなってあたしは目を逸らした
そこには一種の後ろめたさもある
確かにあたしは黒鳥さんを傷つけているのかもしれない
全く相手にされない苦しみを同じように相手にしてない人に半ば八つ当たりのようにぶつけてる


罪悪感が無いわけじゃない
だけどそうでもしなきゃならないような気がして



「麻倉や東海寺もホントはいなくなったらいいと思うけど
まあアイツらはいいよ、チョコが好きなんならチョコを傷つけないし
何よりチョコがアイツらを受け入れてるから」



ふと東海寺くんが言っていたことを思い出す

“紫苑は、アイツはヤバい”

何を言ってるのと内心馬鹿にした過去のあたしは本当に愚かだった
いまなら分かる、東海寺くんが言っていた意味
この人は、自己中なんて言われてるけど実はそうじゃない



「だからさぁ、消えてくれない?」



この人を支配するのは大きすぎるほどの黒鳥さんへの感情
友情なんて言葉で収まるほど綺麗なものではないそれは
あたしが東海寺くんに、東海寺くんが黒鳥さんに向けている酷く身勝手な感情と似ていて



「あたしの大切なチョコを傷つけるなら消えてよ」



狂ってる、そう思うけれども口に出せないくらいのオーラを纏うメグさん
自分が世界一可愛いなんて言ってのけるいつもの雰囲気は完全に取り払われている
その美しい顔に氷を思わせるほどの冷たい微笑みを浮かべてあたしを見つめるこの人は
きっとだれよりも、自分が黒鳥さんを傷つけてしまうと気付いているのだろうか



重たいほどの恋情はきっと黒鳥さんを縛り悩ませ苦しめることになるのに
それでも幸せそうに笑うこの人は最後まで黒鳥さんの前では狂わずにいられるのだろうか



答えなんて分からない
最後まで黒鳥さんの“幼なじみ”に何も言い返すことが出来なかったあたしには知ることが出来るはずもなかった




歯車は狂ったまま動き出す

(気付いても、あたしにはどうすることもできない)



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