第3部

□第25の枝 不法侵入者と命懸け鬼ごっこ(前篇)
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冬場のイギリスにしては珍しく、雪雲もない快晴の日。

朝の光が、地面に厚く積もっている数日降り続いた雪に反射して、きらきらと輝いていた。



そんな天気の下、ホグワーツのすぐそばにある禁じられた森の中では、不思議な光景が広がっていた。



奥に行くほど危険なこの森の、入口から近い割と浅い場所。

小動物たちがよく行き来する、小さな泉のある窪地に、ずらりと動物たちが並んでいたのだ。


きれいに一列に。


しかも、もしかしなくとも食物連鎖の関係にあるのでは…
と思ってしまうような動物たちが、普通に並んでいる。

袋ネズミの後ろにヤマネコ、リスの後ろに狐、兎の後ろに大蛇。
よく見ると、純白に輝くユニコーンの子どもまでいる。





そんな奇妙な行列の先頭にいるのは、
朝日に美しく輝くミルクティーブラウンの髪をした、ハシバミ色の目の少女だった。


言わずと知れた、動物たちの愛する少女、アナベル・ポッター。


少女は赤と金のネクタイを締め、きちんと着た制服の上からコートを着込み、
傍らに医療バッグを置いて、雪を払った倒木の上に座っている。

…否、倒木の上に座ったプラチナブロンドの少年の膝の上に座っていた。





 「先輩、重たくないですか?」



集まってきている動物たちを手際よく診てやりながらも、
アナベルは少々気がかりそうに、自分を膝に乗せている恋人を見やった。

が、なんと言おうとプラチナブロンドの少年ドラコ・マルフォイは、アナベルを膝から下ろそうとはしない。



 「全然重くないさ。それに、今雪は降っていないが、
こんな寒い日に、ベルを倒木の上になんて座らせておけるか。風邪をひいたらどうするんだ?」



そう主張して、しっかりと自分を抱え込むドラコに、アナベルは笑ってしまった。



 「わかりました。じゃあ、よろしくお願いしますね、私の椅子兼助手さん。」


 「お任せを、お姫様。」



笑う少女に澄まして答えながら、ドラコは医療バッグを引き寄せた。



 「で、最初は?」


 「この子ですね。見たところ、捻挫かな?」



アナベルはひょいと、一列に並んだ動物たちの先頭にいた袋ネズミを自分の膝にのせた。

ドラコからすると、そんな小さな生き物の様子を、一目見て捻挫かと疑えるなんて信じがたいのだが、
そこはやはり、アナベルなのだ。


予想通り捻挫だったらしく、
アナベルは、言われる前に適切な魔法薬を差し出しているドラコに笑いながら、てきぱきと処置をしていった。

ドラコはその様子を見つつ、
並んでいる動物たちの列の長さを見て、アナベルの手から包帯をひょいと取り上げる。



 「包帯くらいなら、僕も巻ける。
今日は、患者が多いみたいだからな。アナベルは、次の奴を診てやれよ。」



アナベルはずらりと伸びた動物たちの列を見て、納得したらしい。

素直に、ドラコに包帯を渡した。



 「ほんと。朝食の時間に、間に合わなくなったら大変ですものね。じゃあ、お願いします。」


 「ああ。」



少女の手から小さな袋ネズミを慎重に受け取り、ドラコは杖を取り出そうとした。


…が、杖がない。
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