第3部
□第28の枝 決戦の時!クリスマスダンスパーティー(後篇)
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― かつん、かつん、かつん。
決して甲高くも鋭くもない、軽やかなヒールの足音。
ホグワーツの石畳の上に響くその足音を聞けば、
履いている人物の、慣れた優雅な歩き方の美しさもすぐにわかるだろう。
ダームストラングのいい家柄の子息たちや、貴族出身者の多いスリザリン寮の生徒などは、
その足音を聞きつけただけで、素早くこうべを巡らせ、その足音の主を見やる。
そして、のんびりと散歩でもするかのように歩いて行くその人物を見た瞬間、
思わず礼儀も忘れて、ぽかん…と口を開ける羽目になった。
暖かいオレンジ色のろうそくの明かりに反射する、結いあげられたミルクティー色の髪。
純銀の薔薇で留められた髪のおかげで、
露わになった、その白いうなじに見惚れない男はいないはずだ。
その白い首の下に続く、すらりとした肢体。
そのスタイルのいい体を包むのは、レッドブルーの美しいダンスローブ。
肘の上まである手袋と、そのローブの間にちらりと見えるやわ肌には、
左腕に銀色に鈍く輝く腕輪が嵌っていた。
そして、極めつけは、長いまつげに縁取られた大きなハシバミ色の目。
柔らかな色の目にふさわしく、ひどく優しい光を湛えているそれを見れば、
彼女が自分の美しさに驕るような人間ではないと、初対面でもわかる。
というか、彼女は、自分の美しさを自覚しているのだろうか?
これで天然だったら、自分は奇跡を見ているのだ…と思いつつ、
フラフラとヴィーラに引き寄せられるかのように、
ホグワーツ生やダームストラング生の男子が、その少女に寄っていく。
「あの……突然不躾だけれど、もうパートナーは決まってる?」
「はい。ごめんなさい。」
想像通りの高すぎない柔らかな声で、少女は本当に申し訳なさそうに微笑んだ。
「そっか、そうだよね。あの、じゃあ、よければあとで一曲踊ってもらえないかな?」
これほどの少女に声をかけられる強者なら、これくらい食い下がるのは当然。
しかし、やはりその少女は困ったように微笑を浮かべる。
「あの…申し訳ありません。
いろんな方にお声をかけていただいてるんですが、時間があるかもわかりませんし…。」
(うーん…それもそうか。)
確かにこれほど美しい少女だと、声をかけてくる人間は数えきれないくらいいるはずだ。
その全員と踊っている時間は、確実にないに違いない。
いい言い訳だと少女が内心で思っていた通り、
こう言えば、礼儀をわきまえた少年たちは、
それ以上食い下がらず、じゃあまたあとで誘うと言って引き下がってくれる。