第3部
□第10の枝 恋人たちのハッピーハロウィン(前篇)
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「なんだ、アナベル宛?そういえば、よく花束持ってきてたフクロウみたいね。」
「でも、なにも持ってないじゃない?」
そういえば見たことあるミミズクだと、
ルームメイトたちは納得したものの、なにも運んでいないことに首を捻る。
しかし、間近でミミズクを見たアナベルとジニーには、ミミズクが運んできたものが見えていた。
「わ…。」
それは、足首に括りつけられているものではなく、ワシミミズクがその嘴にしっかりと咥えているものだった。
花束ではなく、一本だけの薔薇。
だが、その薔薇は生花でも造花でもなく、花弁から茎まですべてが鈍く輝く薄い純銀でできていた。
「うわ、すっごい!なにそれ!」
ようやく、ミミズクが運んで来たものに気付いたルームメイトが目を丸くする。
アナベルもすっかり驚いてしまったが、そっと手を伸ばしてその銀色に輝く一本の薔薇を手に取ってみた。
純銀でできているらしいとは言え、細部まで凝りに凝ったそれは恐ろしく繊細だ。
触れたら崩れてしまうんじゃないかと、アナベルは一瞬不安になったが、
強化呪文でもかけてあるのか、薔薇は意外にしっかりとしていた。
そして、茎の部分に結ばれた長い深紅のリボン。
そこには、きらきらと輝く銀の粉でメッセージが刻まれていた。
Happy Halloween & Happy Anniversary !
日頃の感謝と愛を込めて、僕の美しい人。
永遠に枯れない薔薇と愛情をここに。
「……うっわ…。」
なんつー気障な。
ジニーは横からそれを覗き込んで、げっそりとした顔をした。
メッセージはそれだけだったが、アナベル同様ジニーにももう送り主がすぐわかるようになっていた。
先ほど思った通り、今日はあの嫌味な純血貴族とアナベルの記念日らしい。
そういえば、ハロウィンの頃から付き合い始めたと以前聞いたことがあった。
「うわあ、なにそれ素敵!!」
「超ロマンチック!やるわねえ、アナベルのお相手。」
ジニーの後ろから、どやどやと銀の薔薇を覗き込んだルームメイトたちが騒ぎ出す。
誰から誰から!と騒ぐのだが、肝心のアナベルは薔薇を見下ろしたまま、ぽけーっとしていた。
ジニーはそれを見て内心ため息をつきつつ、友人に代わってルームメイトたちを押しとどめた。
「まあまあ、落ち着きなさいよ。大体なんで、あなたたちの方がそんな興奮してるんだか。」
「えー、だって、すごいじゃない!」
「そうそう、なんかロマンス小説を地で行く感じ。」
よほど、乙女のツボに入ったらしい。
だからあの性格なのに女子にモテるんだろうな、あのスリザリン野郎は。
ジニーはそんな(失礼な)ことを思いながらも、
なんとかルームメイトたちをアナベルの後ろから引っぺがして、距離を取らせた。
「だったら、わかるでしょ。アナベルの邪魔しないの。今日は記念日なのよ、たぶん。」
「あー、だからか!特別な日ってわけね。」
なるほどーと納得する女子たち。
「気合入れて髪の毛梳かしてたもんね。見てよ、すっごい、さらっさら。」
「もともと綺麗な髪だけどね。幸せ者ねえ、アナベルの彼氏。」
ほんとだよ、あのスリザリンの純血貴族め。
ジニーは2人の会話を聞きながら、心の中で叫ぶ。
声に出せないのが辛いところだ。
が、何はともあれ、ジニーの説得も利いて、
ルームメイトたちは、アナベルをそっとしておくことにしてくれたらしい。
わいわい言いながらも、すぐに部屋を出て大広間へ行ってくれた。
「やっと静かになった。」
やれやれと、ジニーは一仕事終えた気分だったが…よく考えると、自分たちもいい加減大広間へ行かないとマズイ。
本当に、朝食抜きになってしまう。
かぼちゃ尽くしとはいえ、朝食なしはきついと、
ジニーは慌てて、今だぽけっとしている友人を引きずるようにして大広間へ急ぐのだった。