第3部
□第11の枝 恋人たちのハッピーハロウィン(後篇)
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「これでよし、と。」
ドラコの部屋にノックもなしに入って来る人間はまずいないが、ドラコは念のためきっちりと鍵まで閉めた。
そうして、先に部屋に入れたアナベルを振り返る。
「ところで、ベル。あの薔薇…気に…入った…………。」
今朝贈った銀の薔薇のことを尋ねようとしたドラコの言葉は、
振り返って、そこに立っていた少女の姿を見た途端、不自然に途切れてしまった。
…なぜなら、そこに立っていた愛する少女の姿が、常にないものだったので。
「…………。」
しばしの沈黙。
ドラコはフリーズしたまま、頭の片隅で目の前の光景を冷静に分析していった。
とりあえず、目の前に立っているのは、ふわふわした茶色の猫耳をはやしたアナベル・ポッターだった。
よく見ると、すらりとした尻尾も生えている。
ドラコが後ろを向いて鍵を締めている間にローブを脱いだらしく、今はワンピースのように長いワイシャツ姿だった。
「……。」
いや、よく見るとあのワイシャツは自分のものだ、とドラコは気付いた。
いつの間に?いやいや、一体これは…?
「あ、あの、ドラコ先輩。ハッピーハロウィン!」
はにかんだようにもじもじとその場に立っていたアナベルは、そう言って微笑んだ。
「あの、今日はハロウィンで記念日だし、今朝素敵な贈り物ももらったので。
私も何か贈り物をと思ったんですけど…あの、思いつかなくて。
この前お父様に相談したら、こういう格好して先輩のところに行くといいって言われたんです。」
「……………………父上に?」
アナベルの説明を聞いて、ドラコはようやく謎が解けたように感じた。
なるほど、すべてルシウスの仕組んだことだったらしい。
いや、贈り物で悩んでいたアナベルに、余計なことを吹き込んだと言うべきか。
(いやいやいや、余計なことじゃないだろ、これは。むしろ、お礼を言うべきだよな?)
なんたって、猫耳姿で自分のワイシャツを着たアナベルが、目の前に立っているのだから。
父上、GJ!!
ガッと心の中で親指を立てておいて、ドラコはごくんと喉を上下させた。
「……あー………最高に可愛いよ、アナベル。薔薇は気に入ったか?」
「はい!すっごく綺麗でした!」
輝く銀色の薔薇を思い出して、アナベルはぱっとハシバミ色の目を輝かせた。
同時に、その背後で、アナベルの気持ちを忠実に反映した尻尾と耳がぴんと立ち上がる。
ドラコは、何かが心臓を直撃したのを感じた。
「…とりあえず、こっちにおいで、僕の猫ちゃん。」
おいでおいでと両腕を広げれば、
恥ずかしそうにしながらも、少女はドラコに駆け寄って大人しくその腕の中に収まった。
ドラコはそれをしっかりと捕まえて、すかさず抱え上げる。
「わ…!」
慌てるアナベルには構わずに、
さっさと抱きかかえたままベッドに運んで、腰を下ろした自分の膝の上に降ろしてやった。
そして、しげしげと愛する少女の頭の上に生えた猫の耳を眺めた。
その髪よりも少し濃い色の茶色の猫耳には、どうも見覚えがある。
もしかしなくとも、去年、自分たちが付き合うきっかけになった時のあの猫耳ではないだろうか。