第3部
□第14の枝 怪我の功名
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「よし、やっちまえ!」
「ニャー!!」
目障りな赤茶色の毛皮目がけて、足を蹴り出す。
すると、耳をつんざくような猫の声が上がった。
と、思うと、足首に鋭い痛みを感じて、その少年は喚いて足をひっこめた。
「ちくしょう、引っ掻かれた!」
「俺も。嫌な猫だぜ。」
隣で、同じように猫を蹴っていた少年も、顔をしかめて引っかき傷のついた靴を見下ろす。
少年は悪態をつきながら、揺れる深緑と銀のネクタイを煩わしげに手で払った。
足を止めている2人の少年の他に、もう2人、同じ寮の少年が休まず猫を虐めていたのだが、
なんとも逞しいその猫は、現在進行形で果敢に鋭い爪で抵抗している。
その大きさは本当に猫なのかと思うほどだったから、爪の威力は侮れない。
少年は忌々しげに、そのレンガの壁に激突させられたかのように不細工な顔をした猫を見下ろした。
「ちぇ、クソ忌々しい馬鹿猫!」
そう言いながら、再び足を出す。
何度蹴ろうとも反撃してくるような体格の猫だったが、ここで引くのも癪だった。
それに、いくら体がでかかろうと、顔を蹴ればそれなりにダメージにはなるだろう。
そんな算段をしつつ、少年が靴のかかとで思い切り、猫の顔を蹴りつけようと足を蹴り出した時。
いきなり、横から長い脚が出てきて、少年の足と猫の間を遮った。
がつっ!と鈍い音がして、足と足がぶつかる。
猫の周りを取り囲んでいた少年たちも、足を止められて片足で立った少年も、驚いて顔をあげた。
「何をしてるんだ?」
冷やかな声が、一つ、その場に響いた。
4人の少年が見上げた先には、監督生のバッジを付けた少年が立っていた。
(くそ、見回りの監督生か。)
そういえば、トライウィザードトーナメントのせいで朝も見回っているとか聞いたな。
そんなことを少年たちが思ったのは、ほんの一瞬のことだった。
次の瞬間、監督生のバッジから、それを付けている人物へと目を移した彼らは、びしり…!と固まることになった。