第3部

□第14の枝 怪我の功名
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もちろん、品格を重んじるこの監督生が何の理由もなく、そんなことをすることはない。

それに…と青ざめた顔で、少年たちは思った。



 (よほどのことがない限り、一度のチャンスも与えられずにそんな措置が取られることはない…はず。)



よっぽど、スリザリンの全員一致でそれが決まらない限り。
よっぽど、この監督生の逆鱗に触れない限り。


そうは思えど、感情がそれを疑い、少年たちは心もとなく震える足で、目の前の監督生の次の言葉を待った。

ドラコは怒りを抑えようと静かに息を吸っている。

決して、怒鳴ることはもちろん、声を荒げることもなかったが、
ドラコの言葉と雰囲気には、少年たちを竦ませるには十分すぎるほどの威圧感が備わっていた。




 「………二度と、スリザリンの名に恥じるようなことをするな。わかったか。」




押し出された言葉に、少年たちは僅かなチャンスを嗅ぎ取り、一斉に顔をあげる。

喉に引っ掛かったように声が出なかったが、絞り出すようにして4人はなんとか返事を返した。



 「は、はい…。」



低いドラコの声とは対照的な、か細い弱々しい返答。
それだけで力の差が見えるようで、少年たちはごくりと唾を飲み込んだ。



 「…いいだろう行け。」



さっと手を振られて、少年たちは一斉に頭を下げ、争う様にその場を逃げ出した。…が。




 「言っておくが…。」




背中にそんな言葉を投げつけられて、走り出していた少年たちは慌てて急ブレーキをかけた。

振り向けば、冷たく光るアイスブルーの目が蔑むような色を浮かべていた。



 「これは警告だ。そこまで馬鹿だとは思いたくないが…もう一度言っておく。二度とこんなことをするなよ。」



念押しされて、少年たちは口々にYesを叫ぶ。

正直、この場に土下座でもして完全に許してもらいたい気分だ。
この監督生に今度目を付けられたら、安息な学生生活はまず訪れない。


しかし、この場から逃げ出した気持ちが勝って、4人の少年たちは再び回れ右をして一斉に駆けだした。


その不揃いな足音が消えて行くのを見送り、ドラコは苦々しげなため息をつく。



 「くそっ。忌々しい。」



まさか、スリザリンにこんな愚か者がいるとは。
言葉も通じない小動物を虐めて、何が面白いのだろう。

侮蔑する気持ちとは別に、ドラコは真剣に不思議に思った。

と、そこで目の前で唸っている猫の存在を思い出す。



 「………。」



改めて見ると……その猫には見覚えがあった。

猫とは思えない大きさ。
たっぷりとした赤茶色の毛。
ひしゃげた、しかしどこか敏そうな顔。



 「おまえ………グレンジャーのところの猫か。」



確か、クルックシャンクスとか言われていたような気がする。

面倒だなと、ドラコは思わず顔をしかめたが、なるたけゆっくりその場にしゃがんだ。



 「…悪かったな、うちの寮生が。」



猫に言葉が通じるとは思っていなかったが、一応そう詫びながら、そろそろと手を出してみた。

盛大に唸ってはいるが、どうも怪我をしているようだし、このままにはしておけない。
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