第3部
□第15の枝 見えない警備体制
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「あ、おはようございます。ポーピントン卿。」
「やあ、Ms.アナベル・ポッター。今日もお早いですな!」
再び、今度は首なしニックと出くわしたので、アナベルはぺこりと頭を下げた。
ピーブスと違い、ニックはニコニコしながら朗らかに挨拶を返した。
礼儀正しいのはもちろん、
アナベルはニックのフルネームを覚えているという、非常に稀な生徒でもあったからだ。
そうやって、ゴーストとちょくちょくすれ違いながら、
アナベルは早朝で微かな靄のかかった空気の中、中庭に足を踏み出した。
少し歩いて、よく散歩する禁じられた森との境目に行けば、
待つまでもなく、すぐにガサガサとあちこちの草木が揺れる。
「あ、おはよう!おいで、いいもの持ってきたのよー。」
アナベルがにっこりと笑ってしゃがめば、いそいそとまずはヤマネコが顔を出した。
よしよしと撫でてやり、ドライフルーツを差し出せば、大喜びで食べてくれた。
食べ物の匂いを嗅ぎつけたというよりは、アナベルの気配を感じたのだろう。
それからも狐の親子やアナグマの子どもなどがやってきて、アナベルは動物とのふれあいを大いに楽しんだ。
そして、そろそろジニーたちも起きだすだろうという時間になると、動物たちに別れを告げて腰を上げたのだが………。
「あ、ちょっといいかな?」
「え?」
いきなり声をかけられて、アナベルははたと足を止めた。
朝のこんな早い時間に、中庭で声をかけられたのは初めてだ。
驚いて振り返ると、そこに立っていたのは一見するとにこやかな一人の少年だった。
背格好からして、アナベルよりも少し年上だろうか。
ホグワーツの制服ではない見慣れない服装に、アナベルははたと思い当った。
「あ…ええと、ダームストラングの方ですか?」
躊躇いがちにそう言えば、その少年はほっとしたように笑った。
「うん、そうだよ。よかった、ここでホグワーツ生に会えて。
実は、ちょっと方向がわかんなくなっちゃってさ。」
少年の言葉に、アナベルはあっさり納得して頷いた。
トライウィザードトーナメントが行われている今、
ホグワーツにはダームストラングとボーバトン、2校もの他校生がいる特殊な環境だ。
何かあれば他校生に手を貸すよう、マクゴナガルや教師たちからは言われていたので、
アナベルはもちろんと頷く。
人助けということで、今のアナベルの頭にはようやく少し身についてきた『警戒心』は浮かばなかった。
もしもこの場にドラコがいたら、まだ甘い!と頭を抱えただろう。