第3部

□第16の枝 寮を越える少女(前篇)
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 「ベルは、嘘が下手だからなぁ。」



そう言って、笑っていたドラコの顔が思い出される。


自分でもそう思っていたので、
アナベルは下手なことを言って、ドラコとのことがバレる可能性もあると本気で心配だった。

だから、笑い事じゃないと抗議したのだが…それでもドラコは笑っていた。



 「かもな。でも、バレたときはバレたときさ。僕がなんとでもしてやるよ。
だから、アナベルはそう神経質にならなくていい。」



よしよしと頭を撫でられて、顔が真っ赤になったのはつい昨日のこと。

つくづく、優しい人だと思った。



 (いつも、私の不安を先回りして取り除いてくれる。なんであんなに優しくて、頭がいいんだろう。)



私には勿体ないくらい優しい人だと、アナベルがドライキウイをかじりながらそう思っていると、
ハーマイオニーがヒラヒラと、アナベルの前で手を振った。



 「アナベル?ねえ、聞いてる?」


 「えっ!?あっ、…ご、ごめんなさい。」



はっと我に返ったアナベルはバツの悪そうな顔をして、ハーマイオニーに謝った。
恋しいプラチナブロンドの恋人のことを考えていて、全然聞いていなかった。

ハーマイオニーはそんなアナベルを見て、くすりと笑う。



 「謝らなくったっていいのに。ところでね、
クルックシャンクスを連れてきてくれたときのことを、もう1回聞きたいんだけど。」



そう切り出されて、アナベルは曖昧に頷いた。
さて、気をつけないと。



 「苛めてたのはスリザリン生なのよね?」


 「はい。私が実際に見たわけじゃないんですけど、助けた人はそう言ってました。」



ここは正直に言っていいところだ。
アナベルがそう言うと、ハーマイオニーは難しい顔でうんうんと頷く。



 「そう。それで、その助けてくれた人は…わからないのよね?」



数日前聞いたことを確認すれば、ハシバミ色の目の少女はその美しい髪を揺らしてこくんと頷いた。



 「はい。あの、面識のない方で…私よりは先輩だったんですけど。
名前も言わずにすぐに行っちゃったんです。クルックシャンクスも大暴れしてましたし。」



アナベルが微妙に事実を曲げながら、そう答える。
(が、クルックシャンクスがこれでもかと大暴れしていたのは事実だ。)

ハーマイオニーは少しばかりやれやれとした顔で、膝の上の大きな猫を見下ろした。



 「でしょうねえ。この子に暴れられたら、大抵の人は逃げて行きそうだもの。」


 「ていうか、僕ならまず助けないよ。」



口を挟んだロンに、ジニーとハーマイオニーのパンチが飛ぶ。

アナベルは笑いながら、ドライキウイをハーマイオニーの膝の上のクルックシャンクスに差し出してみた。
巨大な赤猫はやや胡散臭げに匂いを嗅いだ後、ぱくりと一飲みにする。



 「美味しいでしょう?」



アナベルは笑って、そのふわふわした頭を撫でた。


アナベルだって、動物が傷つくのは嫌だし、動物を虐める人間なんて大嫌いだ。

無事に治ってよかったと頭を撫でてやれば、クルックシャンクスはご機嫌で喉を鳴らした。
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