第3部

□第17の枝 寮を越える少女(後篇)
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 「………?なにしてんだ、ほら。立てよ。」



差し出した手をぼんやりと見つめるだけで、
一向に立ちあがる気配のないアナベルに、上級生は訝しげな表情をする。

と、次の瞬間、その大きな目にじわっと涙が滲んでいることに気付いて、面喰ってしまった。



 「な…お、おい…どうしたんだよ?どっか痛むのか?」



転んだ時に怪我でもしたのかと慌てたが、パッと見そんな風でもない。

また、よくよく見ると、
その少女がすでに泣いていたかのように赤い目をして、顔色も悪いことに気付き、余計混乱した。

それに、あまりに少女は悲しげな顔をしていた。
見ている方が、思わず慌ててしまうような。



 (な、なんだ?俺が泣かせたわけじゃないよな?)



困り切った上級生は、とりあえず少女を立ち上がらせようと思った。

この時期、石畳の床の上に座りこんでいては、短時間でも風邪を引きかねない。

が、腕を掴んでいいものか分かりかね、
散々迷った挙句、結局先ほどのように手を差し出すしかなかった。



 「ほら、立てって。風邪引くだろ。怪我してないよな?」



促すように差し出した手を振ってみれば、
なんとか少女はぐすんと言いながらも、おずおずとその手を取ってくれた。



 「はい。すみません…あの、ありがとうございます。」


 「いや…。」



ようやく立ち上がった少女に、深々と頭を下げられて、上級生は困ってしまった。

変な奴だ。

しかし、相変わらずしおれた花の様な顔をしている少女に、つい気付けば口が開いていた。



 「あー…余計なお世話なんだろうけどな。なんかあったのか?なんなら、マクゴナガルのところにでも…。」



自分で言いながら、ただの通りすがりの、しかもグリフィンドール生に何を言っているのだと思ったのだが、
どうしても、この少女をこのまま放っておくとなると罪悪感が湧いてくる。

なぜかは、わからないが。


素気無く断られるかと思ったが、そこの言葉に少女は微かに微笑んで、ぐいぐいと目を拭った。



 「ありがとうございます。でも、あの、平気…です。ちょっと嫌なことがあっただけで…。」



そうは言っているものの、また目に涙が滲んできている。

これは全然平気そうではない。


上級生は困り切って、唸った。

自分は一体、どうするべきか。(というか、何ができるというのか。)
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