第3部
□第18の枝 昼下がりの目撃者
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「わ…せ、せんぱい!」
「いいじゃないか、誰もいないんだし。」
「そうとは限らないでしょ!それに、ここは廊下です!」
「知ってるよ。」
「だったら、放して下さいよ、もう!」
アナベルは真っ赤になって脱出しようと試みるのだが、ドラコは笑って逃がしてくれない。
ちらりと横目で見ると、廊下にかかった肖像画たちが、
素知らぬ顔をしながらも、しっかりこちらを見ているのがわかって、ますます恥ずかしくなってしまった。
肖像画たちはお互いでゴシップに興じるのは大好きだが、生徒と噂話をすることはまずない。
簡単な会話ならしてくれるが、生徒と親しく話すことはないので、
この目撃談が生徒間に広まる心配はないのだが…それでも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「充電さ、充電。」
しれっとした顔でそんな事を言うドラコを、アナベルは赤くなった顔で下から睨んでやった。
「充電って、今朝もしたじゃないですか。」
「頻繁にしなきゃもたないんだよ。」
そう言って笑い、ドラコはアナベルをひょいと抱き上げた。
そのまま歩き出したドラコに、アナベルが慌てる。
「先輩ったら、下ろしてください!ほんとに人に見られちゃいますよ。」
「誰もいないさ。みんな、第二の課題を見に行ってるだろ。」
すかさずそう返されてしまうと、アナベルも頷かざるを得ない。
トライウィザードトーナメントは、一種のお祭りと認識されているらしく、皆、面白がってしっかり見に行っているのだ。
よほどのことがない限り、城に残っている生徒はいないだろう。
それに、すぐそばにドラコの整った顔があるのが嬉しくて、
アナベルもつい、抵抗を忘れてその首に腕を回してしまった。
「…ところで、私たち、どこに行ってるんですか?」
そのまま、抱き上げられて進むうちに、アナベルはようやくあれ?と首をかしげた。
その様子がまるで、きょとんとした仔リスのようで、
ドラコは笑いながら、すぐそばにある少女の耳に戯れに噛みついた。
「僕の部屋さ。」
「先輩の部屋?」
ぐいっと悪戯な恋人を耳から離しつつ(だいぶ手慣れている)、アナベルが聞き返す。
ドラコは往生際悪く、その顔にちょっかいをかけながら頷いた。
「折角2人でいられるんだから、いいだろ?それとも、ベルは第二の課題を見たいか?」
親しい人間が参加するのは頑として拒んでいたが、
試合自体には興味があるのかもしれないとドラコは聞いたが、愛しの少女はあっさりと首を横に振った。
「ドラコ先輩と一緒にいる方がいいです。」
当たり前のように、そんなことを言うアナベルに、ドラコの口が緩む。
やれやれ、なんて素直で可愛らしい少女なのだろうか、この恋人は。
思わず足を止めて頬や鼻の脇、顔中に口づければ、
アナベルはくすぐったそうに笑いながらも、嬉しそうに顔を擦り寄せた。