第3部

□第18の枝 昼下がりの目撃者
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 「先輩、ダメ。早くお部屋に行ってください。」


 「なんだよ、口にはさせてくれないのか?」



わざとらしく不満気にそう主張する少年に、アナベルは笑いそうになったが、
わざと子猫にするようにメッ!と言って鼻を摘まんでやった。



 「ダメです。ここは廊下なんですよ?お部屋に入らない限りダメ。」


 「その『お部屋』は、もうすぐそこじゃないか。」


 「じゃあ、なおのこと早く行ってくださいな。」



今度こそ、アナベルは吹き出してしまった。

目の前の階段を下りれば、もうそこは地下。
スネイプの部屋の前を通って真っ直ぐ進めば、すぐに寮に着くのに。


その僅かな距離にダダをこねる恋人が、可愛すぎる。


このプラチナブロンドの恋人は、たまにこうして聞き分けのない子どものようになるのだ。

それがどうにも可愛らしくて、アナベルは笑いながら美しいアイスブルーの目の脇にキスをした。



 「ほら、先輩。早く。」


 「…部屋まで我慢したら、僕はご褒美をもらえるのかな?」



…アナベルの愛する子どもは、少々抜け目ないようだった。


さすがスリザリン生と感心してしまったが、アナベルは慎重に考え込んだ。

ここで迂闊に軽い返事をすると、後で絶対後悔する。
この狡猾な恋人は、チャンスというものを一度だって逃したりはしないのだ。



 「…ご褒美の内容にもよります。」



考えた末、警戒して慎重な答えを返すアナベルに、ドラコは努めて無害そうな顔をして見せた。



 「別に、悪戯するわけじゃない。ただちょっとだな、アナベルの胸で昼寝がしたい。」


 「………。」



あっけからんとそう言うドラコ。

膝ではなく、胸という辺りにアナベルはうーんと考え込んだ。


ドラコはよく自分で言っているように、アナベルの柔らかな胸に顔を埋めてうつ伏せに寝るのが好きなのだ。

母性本能というのだろうか、胸元に鼻先を埋めぐいぐい顔を押し付けてくるドラコに、
アナベルはどうにも心をくすぐられて、いつも許してやるのだが。



 (うーん…。)



これのいただけないところは、偶にそれ以上の悪戯に発展することがあるから。

ただでさえ、間に合えば後から行くとハリーたちに言っているので、
部屋で長時間捕まってしまったら、後で言い訳が大変になってしまう。


今までの経験からそう考えたアナベルは、
『下心はありません。』と、わざとらしいほどはっきり書かれた顔の恋人を、じろーっと眺めてみた。



 「………お昼寝するだけですか?」


 「昼寝するだけだ。」


 「本当ですね?」


 「本当、本当。」


 「それ以上のことしません?」


 「それ以上のことって?」


 「もう、先輩!!」



わざとそう聞き返すドラコに、アナベルが真っ赤になってその胸板を叩く。
ドラコは笑いながら、はいはいと頷いた。



 「ほんとだって。悪戯はしない。…今日は。」



今日はという、いらない言葉はついたが、なんとか約束を取り付けて、アナベルはようやく首を縦に振った。
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