第3部
□第20の枝 あわや大惨事(前篇)
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「おお!よう来てくれたな!」
ノックをする前にファングの吠え声で気づいたらしく、ハグリットがくしゃくしゃの笑顔で迎えてくれた。
「お邪魔します。あ、ハグリット先生、よかったらこれ。」
「おお、いつもすまねえな。ま、座ってくれや。今、紅茶を淹れよう。」
アナベルが差し出すお茶菓子を嬉しそうに受け取り、ハグリットは2人に椅子を勧める。
ドラコは大人しく椅子に腰を下ろしつつ、
しきりに尻尾を振りながら、膝に乗り上げようとするファングを慣れたように押し戻した。
仔狼のゲイルも、なぜかよく膝に乗りたがるので、阻止には慣れているのだ。
ファングはもちろんだが、ゲイルももうそれなりの大きさと体重をしているので、あまり喜んで膝に乗せたくはない。
(加えて、ドラコは、自分の膝はアナベル専用だと、お馬鹿なことも思っていた。)
「それで、僕とアナベルに何の用なんだ?」
出された紅茶とアナベルお手製のクランベリークッキーをかじりながら、ドラコが早速本題に入った。
ファングにクッキーをやっていたハグリットは、そうだそうだと言いながら立ち上がり、
一冊の小冊子の様なものを持って戻ってきた。
「「?」」
アナベルとドラコが揃ってハテナマークを飛ばしながら受け取ると、
そこには『魔法省規定 授業の進め方指導本―魔法動物飼育学編―』と書かれていた。
「?」
アナベルはますます不思議そうな顔をしたが、
中をパラパラめくったドラコは、すぐに合点がいったかのように頷いた。
「なるほどな。」
「何が、なるほどなんですか?」
きょとん顔のアナベルに笑って、ドラコはよしよしとその美しい髪を撫でながら説明してやった。
「父上やMr.オーディスから聞いたことがあるんだ。
魔法省がいよいよ少しずつではあるけど、ホグワーツの運営に口を出し始めてるらしい。
これはその一環さ。授業内容を、魔法省の定めた規定に従ったものしろってことだろ?」
ドラコの説明にアナベルはへー!と目を丸くしたが、
向かい側に座るハグリットは、盛大なため息をついている。
「その通りなんだ、これが。俺にはさっぱりだが、
どうも、その本に書いてあるのを参考にした授業をせにゃならんらしい。
あまりそれを無視した授業をやっとると、なんでも魔法省の『視察』っちゅーもんが入るらしくてな。」
ため息交じりにそう言ったハグリットは、文字通りお手上げだと両腕を振り上げた。
アナベルもようやく納得して、うんうんと頷く。
なるほど、それでドラコの手助けが必要というわけか。
アナベルは動物に詳しいし、ドラコは多少のその知識に加え、
魔法省に関しては、なまじその辺の小役人よりもよほど熟知している。
2人でやれば、十分ハグリットの助けにはなるだろう。