第3部

□第25の枝 不法侵入者と命懸け鬼ごっこ(前篇)
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 「あれ!?」



まさか、杖を持たずに外に出たなんてことはないはずだ。

ほんの一瞬ドラコは驚いたが、すぐに後ろでパタパタと音がするのを聞いてため息をついた。




 「……………ゲイル。おまえだろ。」




振り向いてみれば、そこには、積もった雪の上に無頓着に座り込み、
尻尾を振りながら、ガジガジと楽しそうにドラコの杖をかじったりつついたりしている仔狼が一匹。


その様子をちらりと横目で見て、アナベルは吹き出してしまった。


どうもこの仔狼的には、ドラコの杖が遊びに適したサイズのものらしい。

普段からよく、ドラコの寝ている間に杖を持ちだしては遊んでそのままにするので、
ドラコが朝起きて、杖が見当たらずに大慌する…という事態も珍しくないそうだ。




 「あらら。ゲイルは本当に、ドラコ先輩の杖が好きねえ。」



アナベルがクスクス笑えば、仔狼はまた暢気に尻尾を振る。

ドラコは、うんざりとため息をついた。



 「まったく、冗談じゃない。この悪戯小僧のせいで、僕の杖は歯形だらけなんだぞ。

休暇が明ける前に一度、オリバンダーの店に持って行って補修してもらったけどな。
狼の群れにでも襲われたのかって、真顔で聞かれたよ。」



アナベルは笑い出してしまった。

その下で、ドラコは『ほら、返せ!』と仔狼から杖を取り戻している。
ゲイルが哀れっぽい鳴き声を上げたが、ドラコは構わずさっさと袋ネズミに包帯を巻いてやった。



 「フェルーラ。」



取り戻した杖(新しい歯形がしっかりとつき、しかも湿っていた)を向ければ、
するすると、丁度いい強さで包帯が巻かれていく。


アナベルが動物たちに包帯を巻く時はマグル式に手でやるのだが、ドラコは杖でやる方が得意だった。

それに、動物たちも、アナベルならともかくドラコの手に直接触られるのは好きではないはずだ。



 「よし、完了。」



小さなネズミを地面の降ろしてやれば、ネズミはちゅーちゅー鳴いて、一目散に去っていく。

その慌てぶりを不思議に思ったドラコが振り向いてみれば、そこには、たりー…と涎を垂らした仔狼。



 「……………ゲイル。何度も言うけどな、患者は食べるんじゃないぞ。」



一応、念押ししておく。

仔狼は、わかってますよと些か不満げな顔をした後、
しきりに、ドラコのわき腹をその鼻先でつつき始めた。


遊んでほしいと訴える狼の子に、
ドラコはため息をつきながらも、その辺に落ちていた木の棒を拾って遊んでやった。



 「消毒液?」


 「正解。」



時折、アナベルが診ている動物を見やって魔法薬を差し出せば、
少女は微笑んで、適切な魔法薬を受け取り、治療していく。


ドラコは、ゲイルと木の棒の引っ張り合いで遊んでやりながら、
魔法薬を渡してやりつつ、包帯巻きを担当するという、一人三役を器用にこなしていった。
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