第3部

□第25の枝 不法侵入者と命懸け鬼ごっこ(前篇)
3ページ/7ページ









 「よーし!これで、おしまい。」




治療目的ではなく、アナベルに遊んでほしいだけの為に来ていたユニコーンに構ってやり、
噛み傷を負っていたオコジョの治療を済ませてしまうと、

そこでようやく、動物たちの奇妙な行列は終了だった。


アナベルは手際よく医療道具を仕舞い、うーんと伸びをした。



 「今日は超多忙だったな。お疲れ様。」


 「助手さんも、お疲れさまでした。」



ひょいとそのまま抱き上げられ、アナベルは笑ってプラチナブロンドの少年の頬にキスを贈った。

だが、当然のごとく冷えているその頬に、アナベルは少しばかり眉を下げてしまう。


多少動いているとはいえ、
雪の積もった上で決して短くはない時間座っていれば、コートを着ていても冷えるはずだ。

むしろ、風邪をひかない方がすごいのかもしれない。



 「ごめんなさい、冷え切っちゃいましたね。それに、私に付き合ってて、退屈しません?」



今更と思いながらも一応言ってみたが、
ドラコは、同じくアナベルの冷え切った手を摩って忙しく温めている。

それでも、プラチナブロンドの少年は、ひょいと肩をすくめて笑った。



 「少なくとも、退屈はしないな。僕は、ベルが動物に囲まれているのを見るのが好きだし。」



さすがに、愛しの少女の前に虎に似た動物が蹲っていたり、大蛇がとぐろを巻いていたりすると肝が冷えるが、

そんな動物たちに、楽しそうに笑い掛けているアナベルを見ていると、
なんというか、こっちまで絆されて穏やかな気分になる。



ドラコは笑ってアナベルを抱えたまま、森の縁まで歩いて行った。

その足元を、ゲイルもちょろちょろ走り回りながらついてくる。

アナベルのおかげで、ドラコももうこの禁じられた森にはハグリットの次くらいには詳しくなっていたので、
雪が積もろうと視界が悪かろうと、まず迷うことはない。



 「なんとか、朝食には間に合いそうだな。」


 「よかった。私、お腹が空いて餓死しそう。」



真面目な顔でそんなことを言うアナベルに笑いながら、
ドラコは森から出る前に、ひょいと少女を地面に下ろした。




 「ゲイル、おまえはいつも通り、裏庭から僕の部屋に戻ってるんだ。いいな?」


 
もうすっかり大きくなってきたゲイルは、とても猫や犬には見えない。

人に目撃されないようにと注意すれば、仔狼は慣れたように一声吠えて、
アナベルに存分に頭を撫でてもらってから、軽やかに走っていった。


それを見送り、アナベルとドラコも城へ戻る。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ