番外編話し集A

□マタニティブルーの涙
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 「つわりがきついって呻いてれば、頑張れって言うし。」


 「は、励ましてたつもりなんだけど…。」


 「頑張って、つわりが楽になるわけないでしょ!?耐えるしかない状態の時に、頑張れって最悪よ!」


 「うぐっ。」


 「で、つわりがようやく終わったかと思ったら、ケーキとか買ってくるし!」


 「ええ、だって、食欲が戻ったっていうから。」


 「妊婦さんは糖質制限があるの!気を付けてないとすぐ糖尿病になるから、
甘いもの我慢してたのに!そこにケーキ買ってくるとか!」


 「うぐっ。」


 「あと、花買ってきたりね!」


 「ダメ!?」


 「妊婦さんは匂いにも敏感なの!」





幾重にもダメ出しされ、がっくり項垂れているジェームズの前で、
リリーはわたし、花の匂いダメだったのよねえと少しばかり懐かしげな顔をしている。


妊娠すると味覚、嗅覚が変わると言うが、この辺りは人により様々のようだ。


アナベルは花の匂いが気になったことはないが、羊皮紙の匂いやインクの匂いがダメになってしまい、
気晴らしに本も読めなくなって、つわりが酷い時期は随分と苦しい思いをした。





 「そうしたら、語り部っていうのかしら、
音楽に合わせて物語を歌ってくれる人を連れて来てくれてね。あれは楽しかったな。」


 「そう!そういうところが、アナベルの旦那さんは偉いのよ!
ほんと、ドラコ君が旦那さんでよかったわね、アナベル!」


 「やめて、リリー、僕の前であいつを褒めないで。」


 「右に同じ。」





今だに、アナベルの夫、ドラコ・マルフォイとは犬猿の仲のハリーとジェームズである。





 「でも、結構あれで心配性なのよ。しもべ妖精の数を増やしたり。
でも、自分の時間もいるだろうからって、四六時中じゃなくて外出の時だけの付き添いになったけど。」


 「そこが偉いのよ!気遣いが空回りしてないでしょ!
妊娠中の奥さんに付き合った経験もないのに、偉い子だわ。」





きっと、色々勉強してるんでしょうねというリリーの言葉通り、
几帳面で、真面目なところがあるドラコはその手の本を大量に読み漁ったらしい。


が、一番参考にしていたのは自分の母親の体験談のようだ。


屋敷には、ドラコの母のナルシッサもよく訪ねて来てくれるので、
アナベルにはリリーと同じくらい、心強い味方になっている。


ちなみに、そのナルシッサは夫が第一子は男の子!と呪文のように繰り返すので、
煩くなって、途中で面会拒絶にしたなんてエピソードを語っている。





 「基本、男ってダメよね。」


 「そういう結論になる!?」


 「でも、母さんとベル見てると、女の人の方が強いっていうのはわかる。」





えー!?とジェームズは異論がありそうな顔をしているが、
どこか神妙な顔をしている兄は将来、奥さんに逆らわない旦那さんになるだろうなとアナベルは頷いた。


たぶん、それが一番平和だ。

とウトウト思っていたら、アナベル?とリリーに声を掛けられ、アナベルはハッと我に返った。




 「大丈夫?」


 「ごめんなさい、眠いだけ。全然、大丈夫よ。」




バッ!と父と兄が過剰反応して、一様に心配そうな目を向けるもので、
アナベルは慌てて、ぶんぶんと両手を振った。





 「平気よ、本当!ただ、気を抜くと眠くなるというか、その、リラックスしてるってことでしょ?」


 「つわりから解放されると、やたら眠くなるわよねえ。わかるわ。少し寝たら?
ジェームズ、ハリーも、煩いからさっさとどこか行きなさい。」


 「さっきから、扱い酷くない?ねえ、ハリー?」


 「またラリアットで強制退場させられるより、歩いて出た方がいいよ、父さん。」





やはり、ハリーの方が賢いようだ。

そうそうと言うように、リリーがにっこり笑って拳を握るので、
ジェームズも慌ててアナベルを抱きしめてから、部屋を出て行った。


リリーはやれやれという顔でそれを見届け、
アナベル用にソファにクッションを積み上げ、ブランケットを用意する。





 「お迎えが来るまで寝てていいんだからね。」


 「でも、折角来たのに…。」


 「ジェームズのために帰ってきてもらってるようなもんだもの!気にせず、寝てなさい。
あ、煩かったら、ジェームズたちは外出させるけど…。」


 「お、追い出さないであげて、ママ;」





平気よ!と宥め、アナベルはありがたく
カーテンが引かれて日差しが遮られた部屋の中、クッションに頭を預けた。


やはり、無意識のうちに体の向きを気遣ったり、うっかり転んだり
風邪を貰ったりしないようにと色々考えていると、神経に負担がかかるようだ。


ぐったりと娘が眠り込んだのをこっそり見届け、リリーはそっとドアを閉めた。
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