番外編話し集@
□ゴドリック谷のある日
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― ざっ、ざっ、ざっ…。
深い森の中。
とてもハイキング気分では来られないようなその森の中の、
これまたあるかどうかわからないような細い獣道を、一人の少年が歩いていた。
何度も行き来しているというように、迷いのない足取りで、その少年は歩いて行く。
その少年は、白麻のシャツを品良く着こなし、
細身のブラックジーンズの上に、スマートだが頑丈なドラゴン皮のブーツを履いている。
そのブーツで鮮やかに色づく夏の草を踏みながら、
少年は森を出るのだろうか、森の奥から森のはずれへと歩いて行った。
頭上から降り注ぐ日の光に、ちらりと美しいプラチナブロンドの髪が反射する。
少年はわき目も振らずにさっさと歩いて行っていたが、
ふと、何やら小動物の鳴き声を耳にして、ゆるりと足を止めた。
― きーきー。
甲高い鳴き声を追って、その少年がひょいと目線を下げると、
少年の足元に、1匹のリスが後ろ足で立ち上がってこちらを見上げていた。
「なんだ、おまえ。」
ビーズの様なよく動く目に見上げられて、思わずふっと笑った少年に、
そのリスは、ふさふさした尻尾を振りながら、また鳴き声を上げる。
「アナベルに用なのか?患者かな。」
ぱっと見、怪我している様子ではないが…と呟きながら、少年は身をかがめる。
リスからすると、その少年は十分に巨大な人間なのだが、
そのリスは少しも怖気づかずに、ひょいと差し出した少年の手に駆けあがった。