番外編話し集A

□マタニティブルーの涙
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 「よい、しょ。」


 「大丈夫でございますか、奥様!」


 「大丈夫、大丈夫。」





全然、疲れてないからとアナベル・マルフォイ、旧姓アナベル・ポッターは
傍らで、そわそわしている屋敷しもべ妖精を安心させようとにっこり微笑んだ。


その穏やかな笑顔は今も昔も変わらないが、
体の方はお腹がゆるりとカーブを描いて、淡いミント色のマタニティドレスを押し上げていた。


現在、第1子を妊娠中の身であり、初産なので、
体に障ったらとしもべ妖精はヤキモキしているわけなのだが、適度な運動は必要だし、

気分転換も兼ねて、アナベルは週に一度、この実家のポッター家を訪ねることにしていた。



ようやく、実家の見慣れたドアの前に到着し、アナベルが一息ついている間に、しもべ妖精がドアを叩く。





 「ただいまー。」


 「あらっ、おかえり、アナベル!」





出てきたのはリリー・ポッターで、掃除をしていたらしいのだが、
娘の顔を見るなり布巾をその辺に放り投げて、いそいそとドアを大きく開けた。





 「今週も元気そうじゃない、よかったわ。」


 「うん、まあまあよ、ママ。あ、もう大丈夫よ、リンキー。」


 「はいなのです、奥様!また帰りにお迎えにあがります!」





アナベルをリリーに引き渡すまでが仕事のしもべ妖精は、深々とお辞儀をしてから、
おなじみのバチン!という音と共に消えた。




 「相変わらず、甲斐甲斐しいわね。」


 「ドラコが外出する時は、絶対付き添いがいなきゃダメだって。」




ゆっくり歩くアナベルに合わせて居間へ移動しながら、リリーはうんうんと頷いた。




 「そうよ、心配しすぎもよくないけど、何があるかわからないんだし、気を付けないとね。」




2度の出産経験者の言葉に、アナベルは初めて、どこか疲れたような笑みをちらっと浮かべた。





 「そうねえ、本当、難しいのよね。でも、赤ちゃんのためだし。」


 「そうそう!アナベルはしっかり者だし、あの旦那さんがいるんだし、大丈夫よ!」





アナベルの夫、ドラコ・マルフォイをリリーは、なかなか高く買っている。

学生時代から娘と付き合いだしたこの青年は、当時から礼儀正しいしっかりした子だったものの、
妊娠中のアナベルのフォローも、リリーが感心するくらいよくやっていて、

更に、好感度が急上昇しているところであった。


初産の妻に付き合うのは、実感の湧く母体以上に不慣れで大変だろうに、よくそつなくこなしていると思う。

おかげで、アナベルはつわりの一波も乗り越え、こうして順調に予定日に近づいているのだ。


それに引き換え…。
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