木初高校男子バレー部!2
□俺の選択
1ページ/1ページ
俺は、自分中心の世界に住んでいた。
そのことは重々承知してたし、他の奴等もそれでいいと言っていた。
それが変わったのは17歳のときだった。
『(なーんで俺がこんなこと……バレーしてーのに……)』
「うぅ……ひっく……」
隣で泣きじゃくる妹(梓・6歳)の手をひいて歩く。
正直、うんざりだ。
本当に、何故俺でなければならないのか。
さっき親から連絡があって、妹を病院に連れていけと言われた。
「お前らが連れてけ。俺は部活だ」と断ったら、怒鳴られた。
その後散々言われ、仕方なく承諾。俺ってば優しいな。
そんなに具合悪いのかと思ったが、そうじゃない。
転んで頭を打った。いつものこと。
『……いい加減泣き止めよ鬱陶しい。だいたいうぜぇんだよ転んだくらいで。俺の貴重な時間を……』
「うぅ……ご、ごめんなさっ……」
思いっきり睨むと、妹はうつ向いた。
俺の貴重な時間を無駄にしやがって。
兄貴なら普通そういうこと言わないよな。
そう、俺は普通の兄貴じゃない。
将来超有望視されてる。所謂エリート。超エリート。
勉強面じゃない。勉強はできない。いや、やろうとしたことないけど。
俺が優れてるのはバレー。
卒業までまだあるが、もうすでにいろんな企業から声がかかっている。
学生代表の試合にも出たし、いろいろ経験した。
その俺が、将来バレーボール界のスーパースターのこの俺が、たかが妹ごときのためにバレーを休むなんて。ふざけてる。
そんなことを考えてると(声に出てたのかも)、病院が見えてきた。
妹は怖いのか、俺の手をしっかり握ってきた。
『おい、もういいだろ。放せ』
「……」
『イラッ 聞いてんのか?おい』
妹が手を放したのと同時に、今まで合わせていた歩幅を自分のペースに戻す。
病院の中に入る。用事なんてさっさと済ませて、部活に戻る。
『すみません。先程電話した高橋ですけど……』
「はい、高橋さ……!////」
『ニコッ (そういうのいいからさっさとしてくれよ)』
「えっと……今日は梓さんの診察ですよね?////」
『はい』
「その、梓さんは……?」
『は?ここに……』
いない?あれ?さっきまで俺の後をついてきてたよな?
『チッ 余計な時間とらせやがって』
「えっ」
一度病院から出る。すると、妹は地面に座っていた。
こいつ、またコケたのか……
側に行って無理矢理立たせる。
「っ!ありが『さっさとしろよ。何回も言わせんじゃねぇ』……ごめんなさい」
本当に、何故俺が……
診察が終わって結果待ちの間、俺はひたすらイメトレをしてた。
妹は俺の邪魔をしないように静かに過ごす。
「……高橋さん、2番にお入りください」
『……』
俺は無言で立ち上がり、妹はそれに続いた。
どうせたいしたことはないんだろ?
結果を聞いたら、俺は真っ直ぐ部活に行く。親からは「病院に連れていけ」としか言われてないからな。診断結果を聞いてやるだけ優しい方だろ。
しかし、俺の予想は大幅に違っていた。
『……はい?えっと、あの……』
「簡単に言いますと、妹さんは三半規管の病気で……」
病気?コイツが?何言ってんだ?
「そのせいで今回みたいに転ぶことが多いと……」
コイツが転ぶのはどんくさいだけだろ?
「……高橋さん?」
『ハッ ご、ごめんなさい。えっと、それ治るんですか?』
「残念ですが、今のところは……でも、直接的には命に関わることではないので……」
『っ……』
妹を見る。事の重大さがわかってない。きょとんとして俺と医師を交互に見てた。
帰り道。さすがに動揺した俺は、妹の手を握り、ちゃんと転ばないように気を付けて歩く。
『……なぁ、なんか食いたいものある?』
「え……?ど、どうしたの……?」
『気紛れだよ気紛れ』
なんか恥ずかしくなって、視線を反らす。
「ふふっ……ようへいくん、ありがとう」
『!』
あ……なんか……
「……プリンたべたいっ!」
コイツのこんな笑顔、初めて見た。
天使みたいで、可愛いかも。
嬉しそうに手を握るコイツ。今度はしっかり握り返す。
『……』
俺は今まで自分のためだけに生きてきた。
でも今は、「病気のコイツのためにできること何かあるかな」とか考えてる。
卒業まであと一年ちょっとある。
まだ考え直す余裕あるよな?
俺の選択
後悔のないように、もう一度やり直してみるか。
(マイエンジェル梓ぁあvVただいまっ☆そうかそうか、寂しかったか!お兄ちゃんの腕に飛び込んでおいでーっ!)
(……え、えんりょするよι )
(もー!つれない梓も可愛いなぁvV)
((洋平くんがバカになった……))
てへぺろっ(笑)