恋音

□僕の"お父さん"
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知ってる〜?

人間って、かなりいい加減な生き物なんだよ〜?

今日だって、ほら〜




『……』

「だから悪かったって……今度ちゃんと埋め合わせはする」

『その埋め合わせが今日だったんでしょ〜?またその埋め合わせなの〜?』




電話の向こうで謝る実父。

モデルやってて、結構人気で……

僕の"お父さん"でいるより、みんなの"ライヤ"でいる時間の方が長いんだ〜

僕はガキだから、お父さんが忙しいとかわかってても知らないフリをして駄々をこねる。




『今度っていつさ〜……それがわかんないと許さな』

「!悪い、撮影始まるから切るな。それじゃ」

『あ〜……切れちゃった〜……』




僕の手にはお母さんに借りた携帯と、遊園地のペアチケット。

携帯からは無機質な音だけが聞こえていた。




『ほらね、いい加減……』




流石に携帯は壊しちゃマズイから、遊園地のチケットをぐしゃぐしゃに握り締める。




すごく楽しみにしてたのに。



仕方ないから、どこかふらつこ〜っと。

どこに行ってもつまらないだろうけどね〜。

適当にふらふら歩いてたら、辺りがすっかり暗くなった。




『……あれ〜?どっちから来たっけ〜……まぁいいや〜、帰りたくないし〜』




本当は、帰りづらいだけだけど。

こんなに遅くなるつもり、なかったし。

でも、電話口でワガママ言っちゃったからな〜

……怒ってる?呆れてる?

それとも……




「郁っ!」

『!お、お父さ〜ん……?』

「お前携帯出ろ……って、なんで泣いてんだよ?」




探し回ってくれてたのかな〜?

お父さんの表情は見えないけど、少しだけ肩が上下してる。




『充電切れたの〜』

「……そうか、もう帰るぞ」

『ね〜、お父さ〜ん』

「あ?何」




小さい時から思ってた事。

ずっとずっと気になってた事。




『僕の事、好き?嫌い?』

「は……?」

『……』

「……はぁ」




お父さんが、僕の髪をわしゃわしゎ撫でた。

乱暴だけど、痛くない。




「わかりきってんだろ?わざわざ言わせようったってそうはいかねぇからな」

『え〜、たまには言ってよ〜』

「うるせぇ彼女か」




面倒くさそうに呟くお父さん。

でも、ちゃんと返してくれるから嬉しい。

今この時間。

僕と歩いてるのは、みんなの"ライヤ"じゃなくて






僕の"お父さん"




なんだもんね?




(……郁、離れろ)
(え〜、嫌だ〜)
(歩きにくいだろ)
(歩けるからいいじゃ〜ん)
(そういう問題じゃねぇよ)




わからなくなってもーた
のだよ
甘えん坊の郁くん……のはず!

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