言葉の欠片はあなたと共に

□第2章 入学と試練
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入学式当日、真新しい制服に身を包み、大きな鏡の前でネクタイを整える俺が居た。
新しい出会い。新しい友達。新しい恋。
みな当り前のように抱く感情を、俺が持つことはなかった。
ただ1年間、仁のために待つのだと。

かったるい入学式も終わり、桜の木の下でぼんやりと過ごす。
クラスメイトどころか、学年に俺の知り合いは居なかった。
それにしても馴れ馴れしく声を掛けてくるバカ共の相手は本当に疲れる。
俺が話をしていたいのは仁だけだ。

ゆっくりと背伸びをし、芝生の上に寝転がる。
桜の花びらが日の光に透けて、薄紅色の海を浮かび上がらせていた。
胸から込み上げてきた孤独感が涙に姿を変え、桜の間から見える空を涙色に染める。
このままでは海に溺れてしまいそうな気がしてふと起きあがる。
同時に視界を涙色に染めていた雫が散った花びらに落ちて、吸い込まれていった。
その様子を見ていた俺は、空っぽな笑みを浮かべ、寮へ戻ることにした。


――――この儚く散ってしまいそうな要を校舎の影から見ていた者が居たことを、まだ誰も知らない。
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