言葉の欠片はあなたと共に

□第3章 熱帯夜とバイク
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ある日の夜中、いつものように寮を抜け出した。
今日は空が明るい。見上げると一段と明るい天の川が頭上を流れている。
梅雨も明け、夜中でも蒸し暑い日が続いた。今日は黒のジャージ生地の長ズボンにおそろいの半袖のパーカーをTシャツの上から羽織っていた。
 
アイスクリームでも買おうかと近くのコンビニへと向かった。
出歩くようになってから随分このあたりの道を覚えたと思う。
 
コンビニの入口の前に大きな赤いバイクと少し柄の悪そうな茶髪の男が座りこんでいた。
整ったすこし女性らしい顔立ちに肩から見える椿の刺青がよく似合っていた。
「なに見てんだよ、そこの兄ちゃん」
俺がその様子をまじまじと見ていると案の定絡まれた。
「いや、バイクカッコいいなと思って」
正直に答えるとその男はまんざらでもない顔をして「なんだ、お前バイクに興味あんのか? 後ろ乗るか?」と聞いてきた。
「乗りたい」
そう短く答えるとその男はバイクに掛けてあったジャケットを羽織り「乗りな」とバイクの後ろを親指で指した。

腰に手をまわしてしっかりとつかまる。
「振り落とされるなよ?」
楽しそうに言う男は、ヒロとだけ短く名乗った。
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