青嵐吹くときに君は微笑む

□第2章 はじめてのデート
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 俺は朝から洗面台で格闘していた。歯をよく磨き、普段使いもしないワックスを付け、今日の渚先輩との初デートの準備をする。
「お兄ちゃん、早く代わってよ。どうせそんなにカッコ良くないんだから今更無駄だって」
 妹にズタボロに言われ心に傷を負いながら渋々洗面所を出ると、すでに約束の十分前になっていた。
「あ、ヤバッ。急がないと……」
 俺は財布やケータイ等、必要最低限の物を持って家を飛び出した。

 待ち合わせ場所の駅に向かって走っていると、自分の吐いた息が白くなっていることに気付いた。マフラーぐらいすれば良かったと少し後悔したが取りに行く時間はないし、水族館は当然室内なので我慢することにした。
 駅に着くと、すでに渚先輩はベンチに座って待っていた。
「ご、ごめんなさい渚先輩。待ちましたか?」
 ありきたりな台詞に自分自身苦笑した。
「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ」
「よし、それでは行きましょうか」

 駅の券売機で切符を買い、ホームで電車を待つ。ただそれだけのことなのに俺の心臓はすでに悲鳴を上げている。まともに目を見る事が出来ない。
「零くん、緊張してる?」
「ひぇ? あ、はい……」
 思わず声が裏返ってしまった。すげぇカッコ悪いよ…俺。
「クスッ、零くん可愛い。前はそんなに緊張してなかったでしょ。大丈夫だよ」
 渚先輩…俺、その笑顔だけで死ねそうです……
「はい…ありがとうございます」
「あっそれと、敬語は禁止だからね。僕たち…ね?」
 渚先輩は人さし指を立てて俺の目を見て微笑んだ。渚先輩と俺は人前じゃ言えない関係なんだ…そう思うと胸がズキッとしたが、嬉しくも思った。
 やがて電車が来ると車内は冬休みだということもあり混んでいた。そこで俺たちは並んでドアの近くに立って乗ることにした。
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